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よこりりA’s:プロローグ

プロローグ

時計の針は8時を指していた。本来ならば、人のざわめき、車の騒音といったあらゆる音がまだ賑やかに聞こえる時間帯である。だが、眼下に広がる世界には、都市にあるはずの喧噪はなかった。どういうわけか、一切の生活音が消え去っている。

もちろん時間的には、夜はまだこれからだった。だからこそ、電灯やネオンがまだあちこちに灯っている。ビルにも明かりがそれなりに灯っている。ただ、人が活動している気配だけが消え去っていた。

しかも、風景の色彩すらも若干褪せて見えていた。

その代わりに確認できるのは、桜色や黄色、赤、紫といった閃光が激しく移動してぶつかり合う光景、そのたびに聞こえる耳をつんざくような轟音ある。まるで花火が連続して打ち上げられているかのような光景だった。しかも時折感じる、台風もかくやという強い旋風。そのたびに窓ガラスが何枚も割れる音が響き、建物までもが何か大きなものにぶつかる音が響く。

そんな光景を、ビルの屋上から見つめる一人の少年が居た。あんぐりと口を大きくあけ、目の前の大破壊を呆然と見つめる。

少年の年の頃は17?18ほど、身長は170cm前半ぐらいであろうか。12月の寒空であるために膝ぐらいまでの長さのコートを羽織っているものの、その下に見えるのは普通のジーンズである。
髪はざっくばらんで、あまりまとまりがない。オシャレとかにさほど興味のなさそうなことが見て取れる服装と髪型である。唯一特徴的と言えば、額に巻かれた赤いバンダナぐらいであった。

少年の名前は横島忠夫。高校3年生にして現役のゴーストスイーパーである。彼がそこに居たのは、仕事のためであった。仕事のためではあるが。

「いきなり世界が変わったと思ったら、これかいな……」

横島の顔は、これでもかとばかりに引きつっていた。

「一体どこの戦場だよ……」

あまりもの光景に、横島は現実逃避をしたくなる。

ゴーストスイーパーの助手になって以来、確かに横島は、随分な経験をしてきた。普段着のまま雪山で遭難しかけたことがある。幽体離脱して大気圏外に行ったこともあるし、月で宇宙戦を繰り広げた事もある。生身で大気圏に突入したこともある。過去にだって2度ほど遡ったことがある。極めつけは去年のアレである。

横島が経験してきた出来事は、非日常的な世界を日常として生きるゴーストスイーパーであっても、さらに非日常的な出来事として数えられるものであろう。

そして今回の仕事もまた、非日常的な世界の非日常的出来事に区分される。間違いなく、そして絶対に目の前で繰り広げられているアレに関わらなくてはならないのだろうから。

バトルジャンキー、戦闘民族の異名を取る彼の友人ならば、すぐにも嬉々として飛び込んでいったであろう。しかし、基本的に痛いことと戦うことが嫌いな横島にとって、目の前で繰り広げられる光景は、間違っても積極的に関わりたいと思うものではない。もちろん、普通のゴーストスイーパーであっても、決して関わりたいと思うものではない。

だから。

「帰りたいなぁ……ダメ?」

と横島が言ったところで、誰が責められようか。

しかし横島の希望はあっさりと却下される。

「そんなこと言ったらダメです。ご飯食べられなくなっちゃいます」

その言葉と共に、一人の少女が現れる。少女は、背の丈が150cm前半ぐらいであり、銀色の髪を肩口で揃えていた。年の頃は横島よりも若干下であろうか。

「ほたるぅぅぅ、どうしてもダメ?」

そんな少女に、恥も外聞もなく横島はすがりつく。

「ダメです」

ほたる、と呼ばれた少女は、既に涙目になっている横島の提案をあっさりと、そしてにっこりと切り捨てた。その言葉に横島は肩を落とす。そんな横島に、ほたるはさらに追い打ちをかけた。

「ざっと確認しましたけど、今張られているのは広域展開型の結界のようです。位相がずらされている、と言った感じでしょうか。確認される魔力量も相当なものですし、どう考えても依頼に繋がる現象です。やらないわけにはいきませんよ?」

ほたるの追い打ちはさらに続く。

「ちなみに現在3組の戦闘行動が確認されています。いずれも1対1です。こちらから観測される魔力量や攻撃現象から見て、ちょっとした魔族同士の戦いに匹敵しますね。また別の箇所でも魔力反応を感知しています」

「そんなんが4箇所かよ……」

もはや涙目どころではない。大泣きしたい気分にさせる報告だった。

横島は思わず空を仰ぐ。本来ならば星が瞬いているはずの空は、結界の作用により曇り空のような様相を呈していた。まるで今の心境のようだと横島は思う。

そんな横島を横目に見ながら、ほたるはさらに言葉を続ける。

「ちなみに3組ともほとんど女性ですよ。というか、小学生ぐらいの女の子、かな? 杖とか持って、皆さんとてもかわいらしいですよ。まるで魔法少女みたいですね」

「魔法少女って……そんなんがアレをやってるのか?」

横島の目に、倒壊していくビルが映る。一瞬後、轟音と振動が横島の立っている場所にまで届いた。その光景を見て、横島の表情がさらに引きつる。

「法の字が違ってないか? 俺の知ってる魔法少女は変身だけであって、間違っても砲撃戦をするようなやつではないぞ?」

「でもここ最近は、そんなのもいませんでしたっけ。2人組とか5人組とか8人組とかで銀河クラスの崩壊を防いだり派手に肉弾戦をしたりするやつとか」

「いたけどそんなの特殊事例だと思ってたぞ。それに、アレは中学生とかじゃなかったっけ」

「でもその特殊事例が目の前にあるわけですから、現実逃避しても仕方ありません」

ほたるの言葉に、横島はやれやれと首を振る。

「簡単な仕事だと思ったんだがなぁ……」

今度は紫の閃光がビルを貫く。倒壊は免れたものの、建物の反対側が見えるのではないかというほどの大穴があいていた。

「……冥子ちゃんの全力暴走に匹敵する破壊っぷり。しかもそんなのが3組。おまけに広域展開の結界を張るほどの魔力もどきと技量。正直やってられんぞ」

疲れたような表情を見せながら、それでもやるしかないのかと横島は呟く。そんな横島を見て、ほたるはくすりと笑った。

「お仕事です。がんばりましょう。それに、朗報です。4箇所目の魔力感知場所には、現在一人しかいません」

「じゃあ、そこに行って、お話聞いてこようか。……気は進まんけど」

「方針決定ですね。了解です、マスター」

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