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よこりりA's:その22

その22

そこは畳敷きの部屋だった。部屋の中央にはこたつ。こたつの上にはミカン。横を見ればお点前セット。壁を見れば提灯の列。部屋の隅にはなぜか鹿威し。

‐‐‐‐間違った日本みたいな部屋だ。

それが横島の素直な感想であった。隣はと言えば、カオスもまた口をあんぐりと開けていた。やはり部屋の妙に間違った統一感に、驚愕しているらしい。ちなみにほたるとアリサは、この場に居ない。ほたるはこの部屋に来る前に、オカルトGメンに【跳】んでいる。アリサは医務室でなのはに付きっきりになっていた。マリアも、オカルトGメンに跳んだほたるの替わりになのはに付き添っている。

「では、改めてご挨拶を」

横島の前に座っている制服姿の女性が口を開く。腰どころか膝までありそうな緑色の長い髪をポニーテールに纏めた女性は、十人が十人とも美人と太鼓判を押そうかというほどである。もちろん、横島も押す。だが。

「時空管理局提督・巡航L級8番艦艦長、リンディ・ハラオウンです。なのはさんを助けて頂き、感謝いたします」

にこにことしながら挨拶をするその姿に、横島は何となく六道母娘を思い浮かべていた。

‐‐‐‐さすがに暴走はせんだろうけど、同類なんだろうなぁ、きっと。

横島の回りには、いろいろな意味で女傑という言葉の似合う女性が多い。母百合子しかり、美神母娘しかり、六道母娘しかり。おキヌやシロ、タマモ、さらには弓かおりや一文字魔理もそうだろう。ほたるも、当然そうである。目の前に座っている女性からも、それと同じ匂いを感じ取れる。

‐‐‐‐俺の回りはそればっかりか。

横島は心の中で、そっと溜め息をついた。

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンです」

リンディと名乗った女性の隣には、黒を基調とする服を着た少年が座っていた。なぜか肩に銀色の突起の付いたその服は、服の色とも相まってどことなく悪の秘密結社を彷彿とさせる。しかしそれ以上に‐‐‐‐

「……子供?」

横島は思わず呟く。目の前の少年は、どう見てもなのはやアリサと同い年ぐらいにしか見えない。

「いや、これでも14なんだが……」

「なんだ、やっぱ子供じゃん」

呟きと言うにはあまりにも大きいそれに、クロノはどこか押し殺したような声をだすが、横島は気にしなかった。なにより、14という言葉をあっさりと切り捨てる。

「ミッドチルダでは就業年齢は低いですから、クロノぐらいの年齢で職に就いている子も多いんですよ」

何かを堪えるようなクロノを、リンディがフォローする。

「へぇ、そうなんですか」

昔は日本もそうだったらしいしと横島は納得する。

「で、ハラオウンというのは……」

「はい。そこにいるクロノの母です」

にっこりと満面の笑顔で肯定するリンディに、クロノがさらに渋い顔になる。

「母? 姉ではなくて?」

横島は絶句した。14の息子のいる母ともなれば、年齢だって30代に入っていよう。だが目の前の女性は、下手をすると20そこそこにしか見えない。セーラー服とか着てたって、たぶん違和感がない。

「クロノクロノ、姉ですって姉」

きゃいのきゃいのと大騒ぎするリンディに、横島の脳裏に美智恵の姿が浮かぶ。

‐‐‐‐もしかして、隊長と同類か?

令子の母美智恵もまた、20を超える娘がいるとは思えないほどの美貌を誇り、かつ2つになるかならないかあたりの娘までもいる。さすがにここまできゃぴきゃぴした反応は見せないものの、うっかり年増だのおばさんだのと言おうものなら何が飛んでくるかわかったものではない。目の前の女性からも、それと同じ匂いを感じた。

「……提督。話が先に進みませんので」

‐‐‐‐このままでは埒があかない。

そう判断したクロノは、リンディに声をかける。

「そうね、クロノ」

突然に表情を改めるリンディに、横島もつられる。

「えっと……まずお名前をお伺いしたいのですけど」

横島はまだ名乗っていなかったことを思い出した。なのはの治癒中にアースラというところに転送され、なのははそのまま医務室へ、横島とカオスは艦長室へと案内されている。アースラへの転送は半ば問答無用だったためにほたるも一緒だったのだが、横島はすぐにほたるをオカルトGメンへと【跳】ばしている。この時はクロノが驚愕の表情を浮かべて横島に詰め寄ったが、横島はのらりくらりとかわし、リンディはどうにかクロノを押しとどめた。

「横島忠夫です。ゴーストスイーパーやってます」

ご用の際はと言いながら名刺を渡し、ついでGS免許を呈示する。

「カオスじゃ」

カオスの挨拶は素っ気ない。だが腕組みをしている辺り、尊大さも感じさせる。

「ゴーストスイーパー、ですか?」

横島とカオスの挨拶に、リンディとクロノは首を傾げる。ゴーストスイーパー、その名の通りならば幽霊掃除人、あるいは退治人。だが、そんな人物がなぜ魔導師の戦闘に参加できたのか、つまりはあの結界にいられたのか、疑問であった。あの結界は、一定量の魔力持ちのみが隔離される結界である。基本的に魔導師のいないこの世界では、基本的にはなのはのみを対象にしていたはず、だった。当然ながら、リンディはその事を問うた。

「巻き込まれたって……」

クロノが憮然と呟く。返ってきた答えが、いかにも人を食ったものだったため。カオスもまた、事実じゃからなと頷く。

「で、聞きたいんですけどね」

横島は本題をぶつけることにした。直球勝負の方がわかりやすいだろうと考えたためでもある。

「リンカーコアの蒐集って、何です?」

リンディもクロノも、どこまで話したものやらと悩む。この世界のように魔法のない世界には表だって介入しないというのが、時空管理局の方針である。そのため、次元世界の組織や個人、さらにはロストロギアによる事件・事故が発生した場合には、あくまでも秘密裏に事態を回収することになっている。前回もそうだったように、今回もできることならばそうしたいというのが、リンディの考えであった。

だが、今回は前回と違った展開を見せつつある。下手をすればこの世界の警察機構が動き出し、それと全面的にぶつかる可能性もあった。しかもこの世界に魔導師はいないが、それに類する存在はあるのだ。しかも、次元世界同様に、おおっぴらに存在している。横島の呈示したGS免許には、それを予想させるに十分な重みがある。さらに横島は、ここに来るまでに人を一人、アースラから跳ばしている。次元の狭間にあり、結界やら防御機構やらが満載のアースラから、である。そのこともまた、リンディを牽制させる方向に働いた。

「……わかりました。お話ししましょう」

リンディは熟考の後、ある程度のことまで話すことに決めた。

「提督!」

「クロノ執務官。もはや現地の警察機構なども動いていると考えるべきです。それでも我々は極秘裏に動かなければなりません。そうである以上、事情を話し、協力を請うのがベターでしょう」

『なのはさんの安全も確保せねばなりませんから。まさか、管理局に強制的に連れて行くわけにもいかないでしょう?』

クロノは声を上げるが、リンディの一言と念話で押し黙る。

「そちら側の事情もうかがいたいのですが、よろしいですか?」

横島としては何ら問題もないので、即座に頷いた。もっとも、向こう同様全てを話す気はなかったが。

****

「……なのは、大丈夫かな」

「大丈夫だと思うよ。バイタルもだいぶ落ち着いていたらしいから」

「Yes」

アリサの呟きにフェイトが答え、それをマリアが肯定する。アースラが時空管理局本局に接岸してすぐ、なのはは本局内の医療施設へと搬送された。現場とアースラ内で応急処置が行われたのが幸いして、さほど深刻な状態にはならなかったらしいとのことであった。

「そっか」

ガラスに映っているのは、心配そうな表情を浮かべる自分。どれほど心配しようとも、アリサはなのはの検査が終わるのを待つしかない。待つことしかできない自分を、もどかしく感じる。

「フェイトは大丈夫なの?」

アリサの視線がフェイトの左手に注がれる。フェイトの手の甲から肘にかけて、包帯が巻かれていた。

「私は大丈夫。大したことないから」

痛みはあるものの、幸い骨折はなく打撲と裂傷のみであったため、日常生活に支障に出るほどのものではなかった。2?3日もすれば包帯は取れるだろうというのが医者の見立てである。

「ねぇ、フェイト」

アリサはフェイトに声をかける。フェイトならば、なのはの身に起きたこと、自分が巻き込まれたこと、その一端を知っているだろうと思ったから。

「なのはが何でこうなったのか、フェイトは知ってるの?」

「私もあまりよくわからない。海鳴に急に結界が張られて、急いでなのはの所に行ったら、襲われてたから……」

「そっか……」

実のところ、フェイトも状況をさほど把握していない。アースラの主要メンバーは状況を把握しているが、それが末端にまで下りてくるのは、もう少し先である。フェイトも嘱託とは言え、否嘱託であるからこそ、末端であることに替わりはない。

でも、アリサにもフェイトにも、わかっていることはひとつある。

「まさかこんな形で会うとは思わなかったけど……」

アリサはフェイトの顔と声を知っている。

「うん、私も」

フェイトもまた、アリサの顔と声を知っていた。

アリサはなのはを通じてフェイトのことを知っていたし、フェイトもまたなのはを通じてアリサ、そしてすずかのことを知っている。しかもフェイトは近々なのはの世界に下りてくる予定であった。予定ではもう少し先のことであり、そして魔法のことは話す気も知られる気も知る気も、なかったのだ。

「まさか、なのはもフェイトも、魔法使いだとは思わなかった……」

しみじみと話すアリサに、フェイトは苦笑する。

「正確には魔導師だけどね。知ってる? なのはが魔導師になったのって、半年前なんだよ」

「そうなの?」

なのはにそんなそぶりが見えなかっただけに、アリサは驚く。

「うん。その時に私と出会ったから。そして、なのはに助けて貰った」

フェイトは窓を見る。ガラスに映っているのは、かつての自分。

「最初はね、敵同士だったんだよ」

フェイトはなのはに出会った時のことを告白し始めた。その内容は、それまでのアリサからすれば滑稽無糖と言わざるを得ない内容だった。不思議な経験をした今でも、信じられないかも知れない。だが、フェイトの真剣な表情や声に籠められている想いが、それが真実であると告げる。

「……そっか」

全てを聞き終わったアリサの中で、何かが繋がった。

「……そう言うことだったのね」

アリサの中で繋がったのは、半年前のこと。なのはの様子がおかしかったこと。自分たちにいろんな事を内緒にして、何もできない自分がもどかしかったこと。そして、なのはが吹っ切れた表情と笑顔を見せたこと。全部が、フェイトの告白の中にあった。

「確かに、言えないよね……」

それはなのはにとって、重荷とも言える秘密であっただろう。そのことに思いを馳せたアリサは、半年前のなのはに胸の裡で頭を下げた。

「ところで、アリサは何であの中にいられたの?」

それはフェイトに限らず、アースラメンバーの誰もが持っている疑問である。あの結界は、一定以上の魔力持ちのみを隔離する結界であった。なのはが隔離されたのはわかるものの、アリサが隔離された理由まではわからない。そもそも、アリサは魔導師でも何でもないのだ。

「あたしもよくわからないんだけど、霊力に反応したんじゃないかってゴーストスイーパーの人が言ってた」

「霊力? ゴーストスイーパー?」

フェイトには初めて聞く言葉である。半年前に海鳴に居た頃には新聞もテレビもラジオもなかったために世情に疎かったし、なのはの手紙にもそう言うことは書かれていなかった。

「魔力とか魔導師とかではないの?」

フェイトの疑問は、アースラメンバーの疑問でもある。ミッドチルダを始めとする次元世界は、魔力と魔法を基礎に置いて発展した世界である。霊力という言葉はあるものの、それは基本的におとぎ話やファンタジーの世界でしかない。

「あの中とかで感じたのが魔力なのだとしたら、ちょっと違うと思う」

アリサは魔力を感覚的に捉えたに過ぎないため、その違いをうまく説明できなかった。ただ、自分の中や、横島などから感じる霊力とは、何かが違っていることだけは、わかっている。

「横島さんとかカオスさんの話だと、なのはとかフェイトの魔力も、横島さん達の知っている魔力とは少し違うんだって。よくわからないけど」

「そうなんだ」

アリサがわからないのなら、フェイトにだってわからない。ただ、あの結界の中にアリサが居たということは、その霊力とやらが魔力に近しい性質のものだったからなのだろうということは、推測できる。と、そこまで考えてフェイトは気が付く。

「アリサ、魔力を感じられるの?」

「漠然と、だけどね。あの時みたいに“視える”わけじゃないけど、何となくはわかるわよ」

「“視える”?」

微妙な発音の違いに、フェイトは首を傾げる。

「うん。なんて言ったらいいのかな、力の流れとか向きとか強さとか、場所とか、そういうのがわかるというか、視えるというか、あまりうまく説明できないんだけど、そんな感じ」

風だって見えたからねというアリサの説明に、フェイトの表情が徐々に変わっていく。魔導師もまた魔力を感じ取ることはできる。また、魔法が発動している時には魔力の流れを捉えることもできる。だがそれは、あくまでも魔法を使うことによって見るもの/見えるものであって、アリサの言う“視る”とは意味合いが違う。アリサの言う“視る”とは、あくまでも視覚的感覚的なものである。ある種の生物が紫外線・赤外線を感知し見るように、アリサも力を“視る”。

「霊視って言うんだって。カオスさんは基礎的な霊能って言ってたわ。で、あの時あたしの瞳は蒼色に染まっていたらしいんだけど……」

アリサはフェイトにずいっと迫り、己の瞳を指さす。

「今はそうじゃないと思うんだけど、どう?」

フェイトは首を縦に振る。確かに今のアリサの瞳は、蒼色ではなく、黒であった。フェイトにそう言われたアリサは、そうだろうなぁと呟き、頷く。

「瞳が蒼色に染まると、霊視しているってことらしいんだけどね。あたしにもよくわからないんだ。今はこれもそんなに反応ないし」

アリサは胸元を飾るペンダントトップをフェイトに見せる。フェイトは綺麗な宝石だと思い、ついでその宝石から感じる妙な力に疑問を覚える。

「精霊石、って言うんだけどね」

「精霊石?」

「精霊の力が込められた宝石なんだって。あたしが霊視してたときは、これを中心に身体中をぐるぐる力が回っていたのがわかったんだけど、今は感じないから」

アリサはペンダントを外し、フェイトに渡した。フェイトは精霊石を掌で包むも、何かの力の波動を感じるだけでしかなかった。何かが起きることを期待していただけに、フェイトは拍子抜けする。

「そっか。この子はアリサをマスターとして認めてるんだね」

精霊石とは、思うにデバイスみたいなものなのだろうとフェイトは思う。フェイトにバルディッシュが、なのはにレイジングハートがそうであるように、この子もまた、自分が認めた相手にのみ、その力を解放するのだろう、と。

だが、フェイトの言葉にアリサは首を傾げる。

「そう言えば、アリサはこっちの魔法のことを全然知らなかったんだね」

「うん」

「じゃあ……」

フェイトは話し始める。次元世界のこと、ミッドチルダのこと、魔法のこと。そして、相棒であり、形見でもあるインテリジェントデバイス‐‐‐‐バルディッシュのことを。

****

時空管理局本局運用部。おなじみの言葉で言えば、人事部、経理部、管財・施設部を兼ねたような部署であり、管理局の事務を統括する中枢組織である。その運用部に属する提督レティ・ロウランは、リンディの報告に頭を抱えていた。

「まさか第97管理外世界がそんなところだったとは……」

第97管理外世界、つまりはなのはやアリサの出身世界が時空管理局に知られたのはそう新しい事ではない。それほど数は多くないが、管理局には第97管理外世界出身者も、先祖をその世界に持つ者も在籍している。だが、“管理外世界”の名が示すように、第97管理外世界の内情について時空管理局はタッチしていない。と言うか、できていない。そういう世界があるということは知っているが、ただそれだけだった。「管理外」とは、つまりはそう言うことである。

しかも時空管理局は人手が圧倒的に足りない。その足りない人手で、広大な次元世界の警察と司法を司るのだ。直接管理し、監視できる世界に人手を回すのが精一杯であり、それですら汲々としているのが現状である。ましてやそこでロストロギアなどが発見され、かつ次元災害などが起ころうものなら、そちらの方にさらに人手が取られる。そんな状態では、なおのこと管理外世界を調査する余裕などありはしない。だが今回は、それが裏目に出た。

「……私もびっくりしたわ。しかも、事態は想像を超えてる」

リンディが横島から聞いた内容は、管理局体制の安定、ひいては次元世界の安定をも脅かしかねないものであった。幽霊、妖怪の存在、その相手をするゴーストスイーパー。その警察版と言えるオカルトGメン。それまでならまだ良かった。ゴーストスイーパーやオカルトGメンとは若干異なるものの、時空管理局も似たようなことをしているためだ。幽霊や妖怪はさすがにいないが、魔獣や魔法生命体と呼ばれる存在を相手にすることも多い。

だが問題は、それを遙かに凌駕する、神魔と呼ばれる存在。幽霊、妖怪以上におとぎ話と言わざるを得ない存在であり、本来ならば神話のみの存在。しかも神界・魔界と呼ばれる世界まであると言う。そんな世界を時空管理局でも把握していない以上、神界・魔界は現次元よりもさらに上位の次元にあると想定せざるを得ない。しかもその存在が、現次元‐‐‐‐第97管理外世界に侵攻をかけたと言う。その侵攻が成功していたら、今頃次元世界全域にも大きな影響が出ていたことだろう。もしかしてアルハザードって神界・魔界のことかしらなどと、レティは呟いた。

そんな呟きを横に、リンディはウィンドウに視線を向ける。そこに映っているのは、時空管理局にとっては招かれざる客人。第97管理外世界の“魔導師”であるゴーストスイーパー。その2人は何やら話あっており‐‐‐‐そして横島は視線をこちらに向けていた。その視線が向けられている先は天井ではなく、間違いなく自分なのであろうと、リンディは直感している。

「監視装置のステルスは万全なはずなんだけど……侮れないわね」

レティもまた、その映像を見ている。リンディはそうねと頷く他なかった。

「しかし、PT事件の影響が今に響いてくるとは思わなかったわ」

海鳴市を舞台に繰り広げられた第一級ロストロギア??ジュエルシードを巡る事件。そのときの魔力の残滓が、現在でも怪奇現象を引き起こしていたとは想像すらしていなかった。本来ならば時空管理局が事後処理をするはずだったであろうそれは、現地の担当者??ゴーストスイーパーによって処理されている。もっとも、今までそのような出来事が起こっていなかったために、時空管理局もそこまで労力を払わなかったに過ぎない。

「管理外世界での事後処理のあり方に一石を投じるわね」

「そうなるわね」

時空管理局としては頭の痛い話である。勝手知ったる管理世界では想像もしないような事態が、管理外世界では発生する。その見本のような出来事であった。しかもその事件は、結果として新たなる事件をも呼び込んだ。それがここ2ヶ月ほど発生している魔導師連続襲撃事件であり、そのひとつの帰結としての、スターライトブレーカーの使用。スターライトブレーカーの膨大な魔力は、現地の観測機器にも捉えられ、政府や神魔が動く可能性すらも呼び込んでいる。時期が時期ですからねというのが、横島の弁だった。確かに、去年に神話級の事件が発生していれば、今回の出来事に現地の統治・治安機構は敏感に反応するだろう。もちろん、神魔も。

「横島さん‐‐‐‐そのゴーストスイーパーの方なんだけど、なのはさんの件はひとまず遺産の暴走という形で処理してくれるとは言ってたけど……」

「遺産、ね……」

現次元を侵攻した魔族が遺した遺産。その全貌は不明であり、それこそ世界を揺るがしかねないものまで存在するという。まるでロストロギアのようだというのが、レティとリンディの感想である。同時に、その遺産が次元世界に流れかねないという懸念も持っている。そうなれば、それはまさにロストロギアとして振る舞うであろうから。場合によってはそれを口実に時空管理局は第97管理外世界を“管理”しかねないし、そうなれば第97管理外世界と時空管理局との全面対決になり得る。

「それはそれで有り難いけど、予断は許されないわ」

そうねとリンディは頷く。

「もしかしたら、あちらと非公式にでも接触しないといけないし」

レティの言葉は重い。なのはを介在として、事態は外交問題にまで発展しかねないというのが2人の懸念であった。

「それから今回の事件だけども、たぶん貴女の艦が担当になるわ」

魔導師連続襲撃事件の実行犯は今まで不明だった。しかし、今回の事件によって実行犯を特定することができた。実行犯を特定することができた以上、時空管理局としても本腰を入れて捜査に当たることになる。そして実行犯を特定したのがアースラである以上、済し崩し的にアースラに担当が回されることになる。それは過去の例から見ても明らかだった。

「流れ的には、そうなっちゃうでしょうね。エイミィあたりは休みがなくなるって文句を言うでしょうね」

アースラは今回2ヶ月のC整備‐‐‐‐艦の分解整備が予定されており、その間アースラスタッフは久々の長期休暇が予定されていた。だが、今回の事件の担当になる以上、休みは延期となる。もっともそれは仕方のないことだとリンディは思っている。他のメンバーも、そう割り切っているだろう。もちろん、当のエイミィも。だからこれは、まあ言ってみただけというやつになる。

「第一級ロストロギア‐‐‐‐闇の書。因縁なのかしら」

ぽつりと漏らすリンディに、レティは複雑な表情を見せる。今回の事件は、闇の書と呼ばれるロストロギア関連の事件であることがはっきりとした。そして魔導師を襲撃したのが、闇の書の守護騎士であるヴォルケンリッターであることも。

「いつの頃から存在するかわからないけど、そのたびに魔導師を襲撃し、リンカーコアを奪ってきた。その結末は必ず他者を巻き込んでの自滅。そして最後に確認されたのが11年前」

淡々と話すリンディの顔からは、表情が消え去っていた。

「貴女のご主人が亡くなられた事件……」

レティの言葉に、リンディは静かに頷く。

闇の書はリンカーコアを666ページ蒐集し、その持ち主に膨大な力を与える。そのために闇の書と対峙するためには、まずその持ち主を特定し、拘束する必要があった。11年前の事件では、どうにか持ち主を特定することができ、しかも蒐集が終了しきる直前に主と闇の書の両方を拘束することができた。初めて両者を次元管理局まで移送するところまで持ち込めたのである。

だが完成直前だった闇の書はそこで暴走した。あろうことか主のリンカーコアを取りこみ、あまつさえ移送艦のコントロールを乗っ取って僚艦を攻撃し始めたのである。そのため、当時移送任務を指揮していたギル・グレアム提督はやむ追えず移送艦の破壊を命令する。その移送艦の指揮を執っていたのが、リンディの夫であるクライドであった。

「本当に、因縁ね……」

ぼそっと呟くリンディの表情は、レティにはうかがい知れない。そして何も言えなかった。出現の度に災厄を振りまいてきた闇の書は、関わった者にも想像以上に深い闇をもたらす。リンディの息子であるクロノには比較的わかりやすい形で出ているが、リンディは表に出さない、否出せない分だけ、深かった。

「アースラなんだけど……C整備は少し先延ばしになるわ。さすがにL級に余裕はないし、艦ごとの癖も違うからね。その代わり、アルカンシェルの装着とそれに伴う整備が行われます」

アルカンシェル、という言葉にリンディが反応する。アルカンシェルは時空管理局が有する艦艇登載兵器の中では最大級の威力を誇る魔導砲であり、過去何回か闇の書の持ち主を葬ってきた。そして、夫の乗る艦を沈めたのもまた、アルカンシェルであった。

「そうね。闇の書を葬り去るとなれば、アルカンシェルしかないでしょうから……」

アルカンシェルは最凶とも評される。そう評されるのは、百数十キロに及ぶ空間歪曲と反応消滅を起こすという、もはや兵器の域を超えた威力にある。艦艇どころか、惑星、条件が良ければ恒星すらをも消滅させ、大規模な次元震すら起こしかねない。だが、それ程の威力を放たない限り、闇の書を止めることはできない。否、それですら、止めるだけであって、なぜか最終的な決着を付けるには至らなかった。

「でも、できれば使いたくないわね」

「そうね」

決着の先延ばしにしかならないとは言え、現時点ではアルカンシェル以外に道はない。

「で、アルカンシェルの装着にはどれぐらい?」

「そうね……」

レティは指折り数える。

「ざっと2週間というところかしら」

「となると、やっぱり代替艦は……ないのよねぇ」

「そうね。L級に限らず艦船に余裕はないわ。特に長期の作戦指揮ができるようなのは、ね」

レティのその言葉に、リンディはかねてから考えていた計画を実行に移すことにする。その計画を聞いたレティの表情は驚き呆れるものだったが、同時に嬉しそうなものでもあったことを、付け加えておく。

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9件のコメント

[C17] 初めまして&感想

誤字報告
>にこにことながら挨拶をするその姿に
「にこにことしながら挨拶をするその姿に」だと思うのですが・・・

>あの時見たいに“視える”わけじゃないけど
「あの時みたいに“視える”わけじゃないけど」だと思うのですが・・・

>しかも神界・魔界と呼ばれる世界あると言う
「しかも神界・魔界と呼ばれる世界もあると言う」だと思うのですが・・・

>夫の乗る艦を沈めたのまた、アルカンシェルであった
「夫の乗る艦を沈めたのもまた、アルカンシェルであった」だと思うのですが・・・

感想
初めまして、俊です。

リリなのとGSをクロスさせたSSは色々有りますが、どれも横島がリリなのの世界に飛ばされる物ばかりで此方の様にリリなのの世界とGSの世界を一つに纏めて安定させたSSは初めて観ました。アシュタロスの事件の一年後の設定でなのは達の物語が始まるのも面白いと思います。横島がもう独立している事には驚きましたが、アノ時給でGMが許す筈が無いですし、美智恵さんも許さないでしょうからと納得しました。

アリサが霊力に目覚めたのは驚きましたが、霊能力を制御する為に、此の侭横島の弟子に成りそうで面白そうです。それに此処の月村家も夜の一族の設定が有りそうで、すずかがどうなるか楽しみです。それに、横島が月村家に行くときは、横島と恭也の間で何か起こりそうでとても楽しみです。個人的には横島にはリリなののヒロイン達(なのは、フェイト、アルフ、はやて、アリサ、すずか、リインフォース、ヴォルケンリッター(ザフィーラ除く))を堕として欲しいですけど。

今の所。GSサイドは横島とオリキャラのほたるとカオスとマリアと美智恵だけですが、雪之丈やピート、タイガー、小竜姫、ヒャクメ、ワルキューレ等が出て来るのを楽しみにしています。勿論美神除霊事務所のメンバーの登場も期待しています。

此れからも更新頑張って下さい。

[C18] 感想

久しぶりに訪れてみたら更新されていたので早速読ませていただきました。
とりあえずGS側と管理局側の会合第一回目といったところでしょう。
まぁ、今回はお互いの情報提供で済んだわけですが…
管理局側が神魔の脅威度をどの程度持つかで今後の展開が大きく変化するでしょう。
管理局の本局が出張って来ない限り、いきなり第97管理外世界を管理しましょうとはならないと思いますが、本局が関わってくると一気に全面戦争ってこともありえるので怖いところです。
まぁ、そうなっても一般人はともかく神魔には管理局も歯が立たないと思いますが。
でも、この話での世の中の状況を踏まえると、下手にアルカンシェルなんか使うと本当に全面戦争になりえるかも(汗
あと、話の中で下手をすればこの世界の警察機構が動き出しとありますが、現在進行形で蒐集の被害者が出ているので普通に考えれば動いて無ければ可笑しいと思うのですがどうでしょう?
それはさておき、これからさらに神界・魔界サイドの出現や、互いの陣営の思惑や利害関係が出てきて益々面白くなりそうだと今後の期待大です。
がんばってください。

[C19] 蒐集について

あんな無秩序な蒐集を行っていれば霊的拠点に直ぐ行ってしまいそうなんですが、そうなると
戦闘力のある神ばかりでは無いので蒐集されちゃう神も居そうです。その場合自分の霊的な
力で存在しているような神魔は消滅する可能性もありそうだから大事になりそうです。それに
霊能を蒐集するなんて事になると魂の発する力である以上、魂の蒐集に通じるので寿命が縮
んだりする恐れもありえるので死神とかの絡みで百目が動くのは自然だし、このままだと管理局
上層部の傲慢さはかなり酷いように思えるので神魔に滅ぼされるかもしれんね。
・・・時間の操作が出来ない以上何をしようと神魔にひっくり返されるしね。

[C20]

いきなり初期段階からイベントに変化が出てきていて、この先どうなるのか楽しみです。特に、それぞれの作品内でのキャラの立ち位置が変わってる(アリサとか)のが面白い。
(クロスと言いつつ何故か原作とイベントに変化がない作品が大半だったりするので)

ただ、気になるのが、
> 場合によってはそれを口実に時空管理局は第97管理外世界を“管理”しかねないし、
これ。この場合の「管理」って要は現地を支配・統治すると同義ですが、そもそも治安維持組織にそんなことを行う能力自体無い(警察が政治するようなもの)と思われるので、どうしても気になって気になって。正直「時空『管理』局」の名前に引きずられ過ぎじゃないかなぁ、と。

あと一点。「スターライトブレーカー」→「スターライトブレイカー」

[C22] 感想

普通、クロスSSはどちらかの世界にとんでしまうのが多いので、世界観の調整や今後の展開が楽しみです。
管理局はいまいち実態がよくわからない事と三期での事から裏では怪しい組織というイメージが自分にはあります。
あの三脳が「兵鬼」を研究させるのもありかも?

[C25] 感想・誤字

実にこれからの展開が楽しみでしょうがないですね。
管理局の存在って実は神魔族には筒抜けだったりしそう。

全面戦争ですかぁ。
遺産をロストロギアとして管理局が回収していったりしちゃったらそれをきっかけに色々と起こりそうですね。

誤字報告
× 滑稽無糖
○ 荒唐無稽・こうとうむけい

[C29] 感想

アルカンシェルと夜の書の暴走、地球上で発動するかな?宇宙意思にこばまれるような気がしますが・・・
うまく二つの世界を、融合させていると思います。続きが楽しみです。

[C40] はじめまして^^

こんばんわ^^
なのはSS情報サイトからのリンクで来ました。
どちらも大好きな作品なので、すごく楽しめました^^
もっと続きも見たいので、宜しくお願いします。

自分も最近、なのはSSを書き始めましたのでお目汚しかもしれませんが、見てくださいね^^

[C41] 初めまして

ん~~良いですねぇ^^
更新が待ち遠しいw

実際、GS世界だと、オカルトGメン(国とか)が出張ってくるのは必然ですよねぇ・・・。
神族は微妙、魔族が動いてないと基本神族って介入できなかったようだし。
百目みたいな情報系神族とか、魔族も軍隊が在るから、管理局とかの情報は、筒抜けになってるような気がするなぁ・・・。

宇宙意志だけど、その意志によって横島、カオスの介入があったって考えも出来そうだなw


魔族が裏で咬んでるって展開に無理矢理、神族側がしたらなら(キーやんサッちゃんの超法規的措置でw)、神族(小竜姫)介入で、(超加速があるから)ほぼ殲滅できそうだな。


あとアルカンシエルってよく使えたよねぁ・・・。
普通、被害甚大のような気がするんだが(人工衛星とか)・・・まぁ、宇宙に結界をしいてて、その中に転移、アルカンシエルを使ったってのなら、影響もないんだろうけど・・・そんな描写無かったような気がするしねぇ・・・。

まぁその辺は・・・これからの展開に期待しますw
  • 2008-12-08
  • うるる
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