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よこりりA’s:その20

その20

「だいぶ賑やかなことじゃの」

「Yes」

屋上に降り立ったカオスとマリアは、目の前に繰り広げられる光景に呆れたような声を出す。一方アリサはと言えば、声が出せなかった。……消耗しきったなのはを見るまでは。

 

あの時アリサが視たように、なのはは確かにそこに居た。だが、なのはが纏っていたのは制服のような服ではなく、いつもの私服だった。だが、なのはが左手に携えている杖は、紛れもなくあの時に視えたものだった。しかもその杖は、今にも崩れ落ちそうななのはの身体をかろうじて支えている。その杖すら、あちこちにヒビが入り、今にも崩れ落ちそうな気配を見せていた。己が身を右手で抱く姿は、その杖の有り様は、なのはが紛れもなく消耗していることを指し示している。
だから、

「なの……」

アリサが思わず叫びそうになるのも、無理はなかった。大事な親友が倒れかけているのだ、思わず叫び駆け寄りそうになるのは当然であろう。そして、叫びきるまえにマリアに口を塞がれるのも、無理はなかった。

口を塞がれ、あまつさえ身体さえ強く抱きしめられて身動きが取れなくなってしまったアリサは、睨むような視線をマリアに、ついでカオスに向けてしまう。

「ミス・アリサ。相手・に・気づかれる・恐れ・が・あります」

「いくら気配を【遮】断しているからとは言え、ここで大声を上げたら気づかれてしまう可能性も高いのでな」

そんなアリサに、マリアとカオスは諭すように話しかける。今、アリサは戦場に立っているのだということを言外に含めながら。

アリサを連れて来るにあたり、カオスは文珠を発動させた。籠められた文字は【遮】、効果は、完璧な隠形。感覚的にも霊的にも、そして魔力的にも、完全な隠蔽が施される。

そもそもカオスとマリアだけならば、いくらでも隠形のしようはある。だが、一般人のアリサが居るとなれば話は変わってくる。当然ながらアリサに隠行の技能はないために、すぐに存在を知られてしまう。だからカオスは横島から渡された文珠【遮】を発動させた。だが、いかな【遮】といえど、中で大騒ぎされては気づかれる可能性はある。

「……ごめんなさい」

アリサはうなだれる。確かに2人の言うとおりであった。自分が居なければ、2人の行動がもっと楽だったことも理解していた。それを無理を言って連れてきて貰ったのは、他ならぬアリサである。

あの時、アリサは訴えた。ここで行われている力の奔流のこと。その時に視てしまった自分の友達。その友達もまた、おそらくはその場にいるのだと。友達に、大切な大切な友達にいったい何が起きているのかを、この目でちゃんと確かめたいのだと。アリサは一生懸命に訴えたのだ。

普通に考えれば、戦場に素人を連れて行くなど、自殺行為以外の何者でもない。そのことはアリサも理解していた。だから、連れて行かれなかったとしても、文句はなかった。その時は、勝手に行くつもりだったのだから。だが、カオスはアリサの訴えを聞いた。カオスがなぜその訴えを聞いたのか、アリサには分からない。カオスはただ一言、うむ、と頷いただけなのだから。カオスの思惑は何にせよ、アリサはこの場に来ることができた。

 

マリアから下ろされたアリサは、改めて回りを見渡す。視覚のみならず、聴覚や嗅覚といった他の感覚器官までもが場の異様な雰囲気を伝えていた。

「一体、何が起きたの……」

通常ならば捉えられることのない感覚を、アリサの五感は捉え始めている。本来ならば見えることのない力の奔流と色。本来ならば触れることのない力の流れ。本来ならば捉えることのない力の匂い。魔力渦巻く戦場は、アリサの視覚以外の感覚をさらに強くとぎすましていく。アリサは、不自然な自然さに驚きつつ、その感覚に素早く順応していった。

霊的に強化され始めた五感の中でも、やはり際だっているのが視覚であった。視覚は、力の奔流や色だけでなく、その持ち主までをもはっきりと映し出している。まるで望遠鏡を覗くように明瞭に、そして肉眼で見るように広い視野を確保していた。

ひとまず確認した閃光は、金色と紫の2つ。それが激しくぶつかり合いながら、早い速度で移動していた。ひとまず金色の閃光の方は後ろを向いているためにはっきりしたことはわからない。だが、背格好から、自分やなのはとそう変わらないぐらいであろうことぐらいは分かる。どこかで見たことあるような気のする後ろ姿でもあった。対する紫色の方は、18?19ぐらいの女性。全体的に力の迸りが強いが、とりわけ手に持った剣に力の集中していることが見て取れる。そして、戦いに疎いアリサと言えども、どちらかと言えば紫の側が押していることも、分かった。

 

突然、アリサは霊力の急激な高まりを感知する。同時に、マリアも警告を発した。

「霊力・反応、魔力・もどき・反応・を・感知。戦闘・です」

アリサとカオスは、マリアの指し示す方へと視線を向ける。

「ほう……」

「あれって……」

「霊波・パターン・照合。横島・さん・と、ミス・ほたる・です」

そこにいたのは2人の見知った姿だった。マリアもまた、そこにいるのが横島とほたるであることを告げる。

「向こうも面倒なことになっているようじゃの」

横島は仮面を被った男性と戦っていた。そのすぐ側に、緑色の服を着た女性が立っていることにアリサは気づく。どうやら上空での力の迸りに紛れ、そちらまでは気が及ばなかったらしい。その女性から感じる力が、先ほどの狼や上空で戦っている人物に似ているため、あちら側の人間なのだろうとアリサは推測する。

「ま、小僧なら大丈夫じゃろ」

「そうなんですか?」

心配すらしようとしないカオスに、アリサは疑問の声を上げる。

「小僧はな、強いぞ。あれはな、経験はとにかく豊富だ。霊能力のないただのバイトの時代から、場数はとにかく踏んでいるのでな。あの程度の相手も、あれ以上の相手も、何度もこなしておる」

アリサは父親もそう言っていたことを思い出す。実際、ここから見える横島は、アリサの目から見ても危なげなかった。

「なに、本当に危なくなったら、小僧はさっさと逃げるでな。逃げることにかけては、とにかく天下一品じゃからの」

「はぁ……」

逃げる、と言う言葉に何となく納得はいかないものの、取り敢えずは納得するしかない。実際、自分が何を言っても何をやっても、この場ではさほど意味がないことぐらい、アリサには分かっていた。

 

「え……!」

突然わき上がった強大な力に、アリサは思わずそちらを見る。そこには‐‐‐‐

「なのは……?」

‐‐‐‐なのはがふらつきながらも杖を構えていた。その杖からは桜色に光る羽のようなものが生えていた。さらに杖の前方に魔法陣が回転しながら展開され、カウントを数える声と共に、大気中から魔力が収集されていくことまでをも見て取ることができる。

「魔力・もどき・反応、さらに・増大」

「なんという力じゃ……」

マリアの報告を待つまでもなく、カオスもまた強大な魔力もどきが一点に収束していくのを感じ取っていた。

「まさか、アレを制御し、撃つのかの……?」

カオスの額に一筋の汗が流れる。周辺の大気から魔力もどきを集め、それをまとめ上げて撃ち出せば、確かにこの場を打開することができよう。だが、貯め込まれた力の圧力を制御できなければ、集められた魔力もどきはあっさりと暴発する。それ以前に、この魔力もどき集中の鍵となっているであろう杖が、圧力に耐えられるのかどうかも疑問であった。どちらにせよ、失敗は死あるのみである。

「なのは……」

アリサも不安であった。なのはが目の前の力を制御していることは理解できる。だが、目の前の力は、アリサの目から見ても巨大な破壊の力であることが分かっていた。

アリサの知るなのはは、争いごとを好まない、むしろ、嫌う少女である。だが、必要とあれば、力を振るうことを厭わない少女でもある。それはなのはの生い立ちに負う所が大きいことを、アリサは知っていた。それだけに、今なのはがどうにかしようとしていることも、アリサには理解できている。とは言うものの、人の身にあまる力を、苦しい表情を見せながらも制御するなのはに、アリサは驚きを隠せない。そこまでの表情を見せることは、まずあり得なかったのだから。

‐‐‐‐ねぇ、なんでそんなことをしてるの?

‐‐‐‐そんなに苦しい表情を見せてまで、なぜそんなことをしてるの?

いろんな想いがアリサの中で駆けめぐる。いっそのこと止めてしまえとも言いたくなる。だがアリサは言い出せなかった。なのはが見せている目は、かつて自分に向けられたものと同じだったから。初めて出会った時に向けられた目と、同じだったから。

その間も、カウント数える声が続く。数字がひとつずつ減ってゆく。その声につられるかのように、上空の戦闘も、横島の戦闘も止まっているのを、アリサは見て取る。

順調に減っていたカウントであるが、数字が3まで減った段階で、同じ数字が繰り返されていた。

「まずい……」

壊れた、という言葉がカオスの脳裏に浮かぶ。魔力もどきはカウントが始まった頃よりもさらにふくれあがっている。
それがこの段階で暴発したら、この付近一帯は壊滅する。

カオスは最悪の事態を予想するも、その予想はあっさりと砕かれた。魔力もどきの大きさが、唐突に減少したためである。次の瞬間、アリサの絶叫が響き渡った。

 

アリサは、なのはの胸から腕が突き出たのを、見た。

「な、なんなのよ……」

おぞましいとしか言いようのない光景。胸から手が突き出るなんていうのは、ホラーかスプラッタ以外の何ものでもない。一言で言えば、映画の世界。だが、目の前の出来事は、現実だった。喋る狼と言い、今まで繰り広げられている壮大な戦闘と言い、もはや何が現実なのかすら分からなくなる光景である。

「なるほど、あれが蒐集、かの……」

カオスがぽつりともたらした一言に、アリサは現実に引き戻される。

「蒐集って?」

「さっき犬が喋っておったろう? リンカーコアとやらを蒐集する、と。リンカーコアとやらが何なのかはさっぱりじゃが、蒐集というのはたぶんあれじゃろ。嬢ちゃんはまだそこまで見えんかもしれんが、あの嬢ちゃんの魔力もどきが、あっちの嬢ちゃんが持っている本に流れとる」

カオスはなのはと緑色の服の女性とを交互に指さす。

「流れてる……って、なのはは大丈夫なんですか?」

アリサはカオスに詰め寄る。

「大丈夫なわけなかろう」

だがそれは、あっさりと一蹴された。

「あれは蒐集ではなくて収奪じゃ。収奪される側の負担、不快感、喪失感、苦痛は計り知れん」

「そんな……」

アリサは既に何度目かもわからない絶句を漏らす。実際、なのはの顔が驚愕と苦痛にゆがむのを、ここからでもアリサは見て取ることができた。そして??なのはが必死の表情を浮かべ、歯を食いしばって杖を振り下ろすのを、アリサは見る。なのはがゆっくりと倒れ込むのを見るに及び、再度、アリサは絶叫を上げることとなった。

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