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よこりりA’s:その19

その19

‐‐‐‐さて、どうやって声をかけようか。

翠の服の女性のそばまで来たはいいが、横島はふとそこで立ち止まってしまう。

‐‐‐‐考えてみれば、ナンパ以外で女性に声をかけたことがない。

事ここに至り、横島は愕然とする。横島が声をかけたことのある相手と言えば、基本的にはナンパ相手か、知己の女性に限られる。というよりも、ナンパ状態から済し崩し的に知己へと発展させるのだ、この男は。そのために、普通に女性に声をかけると言う経験が、実はほとんどない。

「どうしたんですか、マスター?」

なぜかウンウン唸っている横島に、ほたるは小声で話しかける。文珠による気配【遮】断が効いているからとは言え、普通の声を出すわけにはいかなかった。

「いや、そのだな……」

横島の歯切れの悪さに、ほたるは首を傾げる。“教育”と“指導”の賜か今でこそ大夫落ち着いているものの、女性、特に美人とみれば誰彼構わずに声をかけまくっていた男が、なぜこの場でそれを発揮しないのか、ほたるには不思議であった。何せ、通りすがりはもちろん、依頼人から商売敵から、とにかく手当たり次第に声をかけまくっていたのだから。そんな横島しか知らないために、よもや横島がどうやって声をかけたらいいのか悩んでいるなどと、ほたるは想像もしていなかった。

「実はな、どうやって声をかけたらいいのかさっぱりわからん」

横島がまじめな顔でそう言うまでは。

「は……?」

一瞬、ほたるの時間が止まる。

「いや、だからな、どう声をかけたらいいのか、わからん。よくよく考えてみたら、ナンパ以外に声をかけた経験って、ほとんどない」

カラカラと笑いながら胸を張る横島に、ほたるは思わず頭を抱えてしまう。とは言うものの、ほたるにも妙案があるわけではない。

‐‐‐‐まさか、ここで躓くとは思いもしませんでしたね……

まさに、予想外の出来事であった。とは言うものの、いつまでも手をこまねいているわけにもいかない。

「……私が声をかけます」

「済まない」

だが、ほたるが意を決して声をかけようとした時、事態は急変した。ほたるが最初に感じたのは、こちら側に向かってくる光の刃。魔力を帯びたそれは、間違いなく横島とほたるを狙ったものだった。

「マスター!」

ほたるが横島に叫び、

「わかってるっ!」

横島もまたそれに反応していた。と同時にサイキックソーサーを数枚展開、光の刃の射出元へと投擲する。光の刃とサイキックソーサーは空中でぶつかり合い、連鎖的に爆発した。
爆発を抜けた数発が横島の元へと向かうも、追加展開したサイキックソーサーに阻まれる。投擲されたサイキックソーサーもまた爆発を抜けてさらにあちら側へと飛ぶが、円形の魔法陣に阻まれていた。そして爆煙が晴れた時、横島はそこにひとりの青年を見る。白い服を端正に着こなしている蒼髪の青年は、なぜか白い仮面を被っているという見るからに胡散臭い雰囲気を醸し出していた。なんとなく某ロン毛公務員を彷彿とさせるその姿に横島の眼は自然と険しくなる。

 

「え、え、え?」

シャマルは突然の出来事にパニックになっていた。急に魔法攻撃の気配を感じたと思ったら、自分のすぐそばからも人の気配が生じたのだ。しかもその気配からも、魔法とは似て非なる攻撃が展開されていた。それぞれがぶつかり合い、光と音をまき散らす。

‐‐‐‐気づかなかった!?

自分から少し離れた場所には、赤いバンダナを巻いた少年と銀髪が特徴的な少女。その向こうには、なぜか仮面を被った見るからに胡散臭い雰囲気を醸し出す青年がひとり。
両者の間には激しい緊張が横たわっていた。ちょっとしたきっかけで、激しい戦闘に陥るほどに。その間に、シャマルが入る余地はない。

だが、シャマルはそのことにショックを受けていた。攻撃を受けるまで、そして迎撃されるまで、シャマルは一切の気配を感じていなかった。確かに他の面子と違い、シャマルは戦闘向きの技能を持っていない。それでもヴォルケンリッターを名乗る以上、魔導師ランクにしてAAクラス程度ならば余裕で、場合によってはAAAクラス相手でもどうにか相手にできる程度の技量はある。そのシャマルが気づかなかったということは、相手は間違いなくシャマル以上の存在、場合によってはシグナムやヴィータ、ザフィーラクラスの遣い手。そのことに思い至り、シャマルの顔はさらに青ざめる。なにせ、気づかないうちに首をかかれてもおかしくなかったのだから。幸い、自分を対象としていなかったからこそ、どうにかなっていたに過ぎないのだから。

 

「まいったな……」

目の前の青年は間違いなくいけ好かない相手‐‐‐‐美形‐‐‐‐だ。何やら違和感を感じなくもないが、ひとまず敵‐‐‐‐美形‐‐‐‐であることに変わりはない。キザっぽく自信たっぷりに腕組みをしているあたり、なおのこと敵であることを実感させる。だが、それ以上に横島を緊張させるのは、目の前の青年が某ロン毛以上の遣い手であるということであった。確かに文珠による気配【遮】断は、その効果があまりにも完璧なだけにかえって不自然さを感じさせる。何せ、空気の流れや光の屈折、音の流れなど、あるべきものが全て消え去るのだ、不自然でないはずがない。だが、その不自然さを感じ取れるのは、例えば某戦闘民族、あるいは小竜姫クラスの遣い手に限られる。大抵は違和感ですらない違和感として認識されるに過ぎない。

「しばしおとなしくしてもらおうか、ゴーストスイーパー」

仮面の男は、手にカードを持ち、横島にかざす。それが何なのか横島にはわからない。だがこの場で取り出した以上、オカルトアイテムの一種なのだろうと、当たりを付ける。

「……どうやら話を聞くのは、あんたからになりそうだな」

横島は神通棍を抜くと、霊力を這わせた。

かくして、2人の戦闘が始まる。

 

「凄い……」

シャマルはそうとしか言えなかった。仮面の男は、間違いなく実力者だ。態度こそ胡散臭いが、強い。それはシャマルの目から見てもよく分かる。空と陸とを自在に動き回り、遅延魔法を使い、バインドを設置し、時に魔法で、時に近接格闘で攻撃を行う。対する少年もまた、間違いなく実力者であった。攻撃を捌き、防ぎ、凌ぎ、あるいは打撃を与え、魔法を無効化し、魔法に似た攻撃を行う。両者譲らず、一進一退を繰り返す様は、まさに拮抗。

だが、強いのは間違いなく少年の方だと、シャマルは確信していた。仮面の男は空を主体とし、方や少年は陸のみ。一般的には制空権を取れる方が有利であろう。屋上のように見晴らしのいい場所ではなおさらである。だが、少年の戦い方は、制空権の有利さをひっくり返しかねないほどのものであった。もっとも相手は距離を取っているわけではない、つまり飛行範囲を屋上周辺に限定しているからこその現象だということも理解していた。しかし、例え距離を取ったとしても、やはりこの少年は不利をひっくり返すのではないだろうかと、シャマルは思う。横島は空戦も、そして地対空の戦いも、それなりに経験しているために対応できているのだが、シャマルにはさすがにそこまで知らない。

‐‐‐‐にしても、あの人は誰?

ゴーストスイーパーと呼ばれた少年は、間違いなく夕べシグナムと引き分けたというヨコシマタダオ‐‐‐‐横島忠夫と書くらしい‐‐‐‐なのだろう。年背格好、さらにはGS協会のホームページに載せられていた写真とも一致する。話を聞いただけでは、そんな馬鹿なとしか思わなかった。信じていなかったわけではない。だがシグナムはヴォルケンリッターの将であり、その技能はトップレベルである。そのトップクラスの魔法を解除し、魔力を無効化するともなれば、やはり信じ切れるものではない。だが、目の前の少年‐‐‐‐横島は、確かに魔法を解除し、魔力を無効化していた。時折聞こえる呟き、見える印、そして紙のようなものがそうしているのだろうと当たりを付ける。

だが問題は、もうひとりの、仮面の男。まるで自分たちに味方するかのような言動に、シャマルは警戒を覚える。自分たちは、闇の書は次元世界では怨嗟の対象でしかない。間違っても、こちらに与する勢力などありはしないのだ。よしんばあったとしても、それは闇の書を利用しようとする勢力に他ならない。今回は一体何が起きているのか、シャマルにはさっぱりわからなかった。

「凄いでしょう?」

目の前の戦闘に、そして事態の変化に戸惑い、考え込んでしまったシャマルに、ほたるは忍び寄る。そして霊波刀を顕現させ、首元へと突きつけた。

‐‐‐‐もう1人いたの、忘れてた!?

耳元から聞こえた声に、首筋に突きつけられた刃に、シャマルは身を固くした。刃が少しでも動けば、それはシャマルの命を奪う。故に、シャマルは動けない。

‐‐‐‐不覚……

目の前の出来事に気を取られすぎて、回りの警戒を怠ったことを悟る。そう、2人いたはずなのに、今戦っているのは少年のみ。となれば、もう1人いるのは必然。そのことをすっかり失念していた。

「凄いでしょう?」

そんなシャマルに、ほたるは同じ言葉をかける。

「……そうね、確かに凄いわ」

その言葉に、シャマルは頷くしかない。と言うよりも、頷くことしかできない。

「マスターは強いわ。貴女達が誰であれ、マスターは負けない。例え勝てなくてもね」

でもね、とほたるは続ける。

「マスターを襲った貴女のお仲間のこと、教えてもらえると嬉しいのだけど」

穏やかな、まるで歌うような、陶然とした声だった。しかし、声には明瞭な殺気が乗せられている。拒否すれば、斬る。そんな意志が明瞭に乗せられていた。

「もちろん、貴女達の目的もね?」

シャマルは動けない。これがシグナムやヴィータ、ザフィーラならば対応できたかもしれない。だがシャマルは後方支援を得意とするため、直接的な戦闘行為には向いていない。
そのために、動けない。

「……聞いて、どうするの?」

シャマルにできるのは時間を稼ぐことだけである。時間さえ稼げれば、シグナムなりヴィータなりが助けに入ってくる。そのためには、とにかく時間を稼いで‐‐‐‐隙を作り出すのみ。

「質問を質問で返すのは、行儀がよろしくなくてよ? 聞いているのは、私。答えるのは、あ・な・た」

シャマルの問いにほたるは答えない。だが、シャマルにしてみればそれで充分だった。端から答えるなどとは思ってもいないのだから。とにかく隙が探せれば、それで良かった。

 

事態はさらに急変する。

‐‐‐‐私は、何も、できない……

ユーノの張った結界の中で、なのはは唇をかみしめる。状況は誰が見ても分が悪かった。フェイトは紫の剣士に押されており、アルフも犬耳の青年に押されていた。善戦はしているが、所詮は負け戦だ。遠からず、2人は落ちる。

‐‐‐‐私が、できることは……ない……

レイジングハートを掴む手に、力が入る。今のなのはに、バリアジャケットを再度纏うほどの魔力はなかった。レイジングハートもコアにまで大きなダメージを受け、完全破損の一歩手前まで来ている。今出て行っても、手伝えるどころか却って足手まといになってしまうことを、充分に理解していた。

<<マスター>>

そんななのはに、レイジングハートが声をかける。

<<スターライトブレーカーを撃って下さい >>

「え……」

スターライトブレーカー。それはなのはの持つ最大攻撃魔法。だがそれだけに術者とデバイスにかかる負担も大きい。今のレイジングハートでは、耐えきれない可能性が大きかった。

「駄目だよ、レイジングハート、壊れちゃうよ……」

<<撃てます。だから、私を信じて下さい、マスター >>

涙声のなのはに、レイジングハートが優しく諭し、訴える。その声はどこまでも、力強かった。

 

横島と仮面男との戦いは、半ば膠着していたと言って良い。どちらも手の内を見せないように慎重に動いていたために、決定的な決め手に欠けていた。均衡を崩すのは、外からでしかなかった。突如わき上がった巨大な魔力の奔流が、まさにそうだった。思わず横島は動きを止め、そちらの方へと目を向けてしまう。見ればなのはが結界を解除し、杖を構え、桜色の魔法陣を幾重にも展開しているところだった。

「な……」

横島は絶句する。杖の先端に膨大な魔力の塊が形成され、しかも回りの魔力を回収しながら、それはさらに大きさを増していく。それはあたかも、夜空をかける流星群が一点へと収束していく、そんなイメージであった。と同時に、カウントダウンの声が当たりに響き渡り、動きを止めた。

だが、それは仮面男にとっては千載一遇のチャンス。横島にとっては、見せてはいけなかった隙。この辺りに、まだ横島の経験不足が出てしまう。その隙をつかれ、横島は派手に蹴飛ばされた。自ら後方に跳んで衝撃を相殺するも、横島は仮面男から相当距離を取らされてしまう。と同時に、やはり魔力に目を奪われてしまったほたるへと近づき、やはり横島の跳んだ方へと投げ飛ばした。

 

シャマルもまた、その光景に目を奪われた。急速に収束していく桜色の魔力は、並の魔導師ならば制御不能に陥り、そのまま暴発させて終わりであろう。だが少女は、大きなダメージを受けながらも、デバイスもまた大きく破損しながらも、それほどの魔力を制御していた。あの魔力を制御しているだけでも驚異的なのに、それをダメージを受けた身体とデバイスで制御している。そのことがシャマルをさらに驚愕させていた。

「なんていう……」

浮かび上がったのは驚愕だけではない。恐怖もまたこみ上げてきていた。見たところ主はやてと同じ年頃の少女であるが、これが長じた時には一体どうなるのか、想像すらつかない。
自分たちをも凌ぐ“化け物”になるのではないか。そんな印象すら与える姿である。

そんな呆然とたたずむシャマルに、声がかけられる。

「何をしている。今の内に蒐集を急げ」

それは先ほどまで横島と戦っていた仮面の男。その言葉に我に返ったシャマルは、旅の扉へと手を誘う。そして??リンカーコアの感触を捉えた。

「蒐集、開始」

≪蒐集≫

闇の書がリンカーコアの蒐集を始める。その魔力の大きさに、闇の書のページが何ページも埋まっていく。ページの埋まり方、捲れ方の早さに、シャマルの目が驚きで見開かれる。
想像はしていた、予想もしていた。だが、これほどまでとは、正直思っていなかった。もっとも蒐集が完了すると同時に、撃ちかけの砲撃魔法を放つというのもまた、予想外であったが。

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