fc2ブログ

Entries

よこりりA’s:その17

その17

眼下に広がるそこは、まさに屋敷と言う他なかった。

「広いな、マリア」

「Yes」

思わず呟いたカオスに、マリアは律儀に応える。

「この広さ、六道並か。あるところにはあるものじゃのう……」

そうぼやくカオスの脳裏に、己の今の境遇が巡る。千年の間に多くのパトロンに巡り会っていたカオスは、その生活も何気に贅沢なものであった。希代どころか天災とも称させるその頭脳は、パトロンにとっても“投資先”として最良であった。

それが今や都心部とは言えボロアパートの一室、家賃の支払いにも困る日々。よもや大家に毎日長刀で追いかけ回されるとは、想像もしていなかった。かつての栄光に比べれば、その落差の何と大きなことか。

もとより、カオスに金銭的な栄光への執着はない。とは言うものの、先立つものがなければ、実験を繰り返すこともままならない。あの時ゴーストスイーパー試験を受けたのは、そのためであった。

「まあ良い。今は当面の目標じゃ」

思わず脳裏に浮かんだぼやき節を振り払うかのように、カオスは頭を左右に振った。

「反応はあるな、マリア」

「Yes」

センサーを最大限に開放していたマリアが、感応の内容をカオスに伝える。

「生体反応2を・確認。ひとつは・霊力反応、もうひとつは・魔力もどき反応・です」

そう言ってマリアは、反応の示す方を指さした。カオスがそちらへと目を向ければ、そこに居たのはひとりの少女と一匹の犬。

「なるほどな……」

少女からは霊力を、犬からは魔力もどきを感じ取る。犬は少女の霊力に惹かれ、やってきたのだろう。ならばその狙いは、おそらくはリンカーコアとやらの蒐集。
そして少女には、それに対抗する手段はない、と考えるのが妥当であった。

となれば‐‐‐‐

「観測と保護、かの……」

やれやれとカオスは溜め息をついた。少女には対抗手段がなく、犬は間違いなく強敵。そのために両方を同時に行うのは、なかなかの難易度である。

‐‐‐‐ほんと、老骨には堪えるわい。

だが、やらないわけにはいかなかった。やらねば来月からの家賃が辛い。

「マリア、降りるぞ。状況は最大限に記録」

「Yes」

2人は少女と犬の元へと舞い降りた。

 

アリサはパニックになっていた。犬が目の前にいる。それはいい。だが、自分の居る場所は2階。犬が居るのは部屋の外。つまりは、浮いている。なぜ犬が浮いているのか、アリサには理解できなかった。そこへ‐‐‐‐

「申し訳ないが、確認させて貰う」

‐‐‐‐と話しかけられれば、アリサならずともパニックに陥ろうというもの。だからであろう、

「い、犬が……喋った……」

かろうじて出てきた言葉が、それだった。声の調子がなのはの父士郎に似ているなぁと、なぜか間の抜けたことを思いつつ。

「……犬ではない。狼だ」

犬と言われて少し傷ついたのか、ザフィーラはやんわりと訂正する。

「い、犬でも狼でもどっちでもいいわよ! だいたい、確認って何よ!」

半ば逆上しつつアリサは怒鳴る。

「良くはないが……まぁ、いい」

その言葉にザフィーラは少し自嘲するも、ひとまず気にしないことにする。気にしていたら先には進めないし、何より、普段のザフィーラは、はやての望みもあって犬そのものの生活を送っているのだから。

「確認とは、貴女が持っているであろうリンカーコア。リンカーコアは魔導師を魔導師たらしめる資質」

「魔導師って……」

‐‐‐‐なんてファンタジーな。

唐突に出てきた言葉にアリサは面食らう。もっとも今のアリサもまた、ファンタジー世界の住人ではあることを忘れていたりする。一般人から見れば、霊能力者も魔導師も、どっちもファンタジーの住人である。

「人違いもいい所よ。あたしは魔導師なんかじゃないわ」

だからリンカーコアなんて知らない。そう言いかけたアリサの言葉を、ザフィーラは静かに遮る。

「だが、この場にいる以上、貴女が魔導師である可能性は高い。魔導師でないにしても、リンカーコアを持っている可能性は高い。この結界は魔力、つまりはリンカーコアを持たぬモノを排除するためのものだからな」

「だからって……」

魔力なんて持ってないわよと言おうとして、アリサは口を閉ざした。そして横島に言われたことを思い出す。槙原動物病院での結界は、一定以上の霊力持ちを呼び込むものだったと言う。そしてその結界は、魔力もどきの残滓によって引き起こされたものであるということも。この結界もそれと同じだとしたら。

「……もしかして、霊力と魔力って似たようなものなのかしら」

「それは何とも言えない」

アリサの呟きを捉えたのだろう、ザフィーラが応える。

「だが、貴女がここにいる以上は、リンカーコアが何らかの形で存在し、機能していると考えるのが妥当だ」

ザフィーラの瞳がアリサをまっすぐに射る。その視線の強さにアリサは少したじろぐが、どうにか堪えた。

「で、あったらどうするのよ」

この犬、もとい狼がこの結界を張ったのだろう。まだまだ未熟の域の、さらに数歩手前にあるアリサにすら、この結界の強固さと強大さを感じ取れる。そこまでの結界を張った以上、リンカーコアとやらを確認するためだけが目的とは到底思えなかった。

「蒐集させて貰う」

故に、返ってきた答えが簡潔だったことに、何ら驚きはしなかった。どこかで、想定していた応えと同じだったということも、関係していた。

「……蒐集って、どうやるのよ」

その言葉にザフィーラは思わず押し黙った。リンカーコアを確認するにせよ抜くにせよ、相手の身体の中へと腕を突き刺す必要がある。その時の不快感と喪失感は、想像を絶するものがあった。とてもではないが、それは伝えられるようなものではない。そうであるからこそ、これまでも問答無用に蒐集してきたのだ。幼い少女にはあまりにも負担の大きい方法でもある。

「なんとなくわかったわ……」

アリサはその沈黙で悟った。具体的な方法は分からないが、ろくでもないということだけは、直感的にではあるが理解していた。

「協力してくれとは言わないし、言えない」

「そっか……」

‐‐‐‐やはりろくなものではないのね。

当たってしまった答えに、アリサもまた沈黙する。もっともアリサとておとなしく蒐集される気はないが、しかし抵抗する術もない以上、動きようがなかった。それこそ、第三者の介入がなければ、展開は予想をなぞる。

「だから‐‐‐‐」

ザフィーラの言葉が、途切れた。それは、そこに投げかけられた言葉があったため。そして、眼光鋭く上空を射る。アリサもまた、その視線につられて上を見た。そこには、ひとりの老人が浮かんでいた。

 

「その辺で、止めておいたらどうじゃの」

マリアを介してアリサとザフィーラの会話を聞いていたカオスは、その内容のあまりもの剣呑さに、すぐさま介入することを決意する。犬、もとい狼の力量はちょっとした魔族に匹敵しよう。そのために少女の保護と狼の相手を同時にこなすことはかなりの労力を要するが、だができないわけではない。長い時を生きてきたカオスにすれば、これまでも何度も経験してきたシチュエーションである。

一方ザフィーラもまた、カオスを鋭く見る。ザフィーラとカオスの距離はそれほど離れているわけではない。だが、声をかけられるまで存在に気づけなかったことにザフィーラはショックを受け、同時に相手の力量を知った。

「どちらかな」

ザフィーラは声に強い殺気を乗せる。老人ではあるが、甘く見て良い相手ではない。

「通りすがりの錬金術師じゃよ」

対するカオスは、その殺気を飄々と受け流す。

「その錬金術師が何のようだ?」

ザフィーラには、錬金術師の意味は分からない。だが、目の前の老人が発している気配は、魔導師ならば間違いなく一流と評されて然るべきものだった。

‐‐‐‐この老人のリンカーコアも蒐集できないだろうか。

思わずそう考えるも、すぐにその考えを否定する。できなくはないだろうが、簡単には蒐集させては貰えないだろう。そもそも、蒐集にまで持って行けるかどうかが疑問である。声をかけられるまで気づかせなかった力量は、それほどの警戒を呼び起こさせた。

「なに、ちょっと雲行きが怪しくなったからの。出てきたまでじゃ」

「そうか、それはありがたいな。感謝申し上げる」

相変わらず飄々とするカオスに、ザフィーラは慇懃無礼に礼を述べる。そして浮かべるは凄惨な笑み。ザフィーラが浮かべる笑みは、まさに獣のそれであった。

「正直、この少女から頂くのは気が引けていたのでな。ご老人ならば、遠慮をせずに済みそうだ」

「これこれ、年寄りは労るものじゃぞ?」

「このような場に居るご老人に、労りなどは不要ではないかな?」

「それもそうじゃな」

カオスは高笑いする。

「ならばご老人、貴殿のリンカーコア、確認し、蒐集させて頂く」

言うが早いが、ザフィーラはカオスに襲いかかった。だがカオスは、不敵な笑みを浮かべたままその場を動かない。ザフィーラは不審に思うも、構うことなく突撃した。

「むう」

だが、カオスにその爪が届く寸前に、障壁に阻まれる。ザフィーラは一端引いた。そして、カオスの隣に、1人の少女の居るのを見る。障壁を展開していたのは、その少女だった。金色の髪をショートカットにし、赤いワンピースを纏った少女は、美人ではあるがどこか無機質な印象もザフィーラに与える。

「もう1人いたのか……」

考えてみれば、確かに1人である必要はなかったのだ。目の前の老人が何の策もなく出てきたと考える方が、間違っていた。そう考えて、ザフィーラは思わず笑みをこぼす。

「ワシの自慢の娘でな。マリアと言う」

そんなザフィーラに、マリアは軽く会釈する。

「言っておくが、娘は強いぞ?」

カオスはにやりと笑った。

「そうか。だが一対一ならば負けはない。むろん、二対一でもなっ!」

カオスの言葉に、ザフィーラは不敵な笑みを浮かべる。

「大層な自信じゃの」

だが、対するカオスも、不敵であった。

「では、参るっ!」

再度、戦闘が始まった。

 

霊的に強化されたアリサの視覚は、わずかな光りをも増幅し、あらゆる力の流れを克明に捉える。

風切り音、弾丸の発射音、何かが壁にぶつかるような音。色とりどりの閃光も、雷のような轟音と雷鳴も走っていた。時折流れ弾も走るが、不思議とアリサに到達する前に翠色に輝くの壁のようなものが展開され、はじき飛ばされていた。ちなみに翠色の障壁は、カオスがそれとなく仕掛けた文珠によって展開された結界である。

「綺麗……」

不謹慎だとは思うが、思わずそう言ってしまう。閃光入り乱れる光景は、まるで花火のようだった。

「互角、なのかなぁ……」

正直な話、アリサに戦いの優劣は付かない。だが、そんなアリサでも目の前の戦闘が相当ハイレベルであることぐらいは、理解できている。それにアリサに目の前の戦闘に介入できる力量はないため、ただただ見守っていることしかできない。

ふと遠くをみれば、そちらでも大きな力が動いているのをはっきりと感じ取ることができた。そして一瞬、本当に一瞬だけであるが、アリサは視てしまった。

アリサの脳裏に、白い服を着た少女の後ろ姿が映し出される。年の頃は自分と同じ。着ている服は、まるで自分が通っている小学校の制服のようだった。少女の手には何か杖らしきものを持っている。その少女は栗色の髪で、髪の両端をお下げのように纏めていた。その背格好にアリサは心当たりがあった。

「なの、は……?」

その少女は、なぜかあちこちを怪我しているような印象を受けた。その怪我の度合いたるや、重傷と言ってもよいほど。誰が見ても、すぐさま入院させるべきと判断するほどの大けが。

だが、その映像もわずか一瞬だけであり、すぐに消えてしまう。アリサは再度意識を集中させるが、何も視えなかった。集中させればさせるほど、上空の戦闘の状況の方がよりはっきりと視えてくる。

‐‐‐‐何もできない。

上空の戦闘にも介入できないし、あっちの大きい方を確認することもできない。もしかしたら友達が怪我をしているかもしれないのに、何もできない。アリサは、ただただ無力感にさいなまれる。

それから数分かが経過した頃。

「あれ?」

突然、上空の気配がひとつ消えた。よく視れば、狼がいない。

「終わった、のかな……?」

予想を裏付けるように、アリサの側へカオスとマリアが降りてくる。カオスとマリアの服はところどころ破れ、焦げてもいた。

「やはり老骨には堪えるわい」

そうぼやくも、カオスはどこか嬉しそうであった。

「Yes」

「だ、大丈夫ですか?」

アリサはそんな2人に声をかける。

「何、大丈夫じゃ」

「ノー・プロブレム」

「そうですか」

本当に大丈夫なのかアリサには判断が付かなかったが、2人が大丈夫だというのならば、そうなのだろうと判断する他ない。

「にしても、嬢ちゃん」

「なんですか?」

「見事なものじゃな」

「見事?」

何か褒められるようなことをしたのだろうかと、アリサは首を傾げた。

「霊視じゃよ。瞳が蒼に染まるほどじゃ、結構な力が働いておる」

その言葉にアリサの目が大きく見開かれた。

「霊視? 蒼?」

「形なきを視、姿なきをなぞる。全ての霊能の基礎にして深淵。それが霊視じゃ」

カオスの言葉を聞きながら、アリサはふと思い返す。風の流れ、木々のざわめき、力の流れ‐‐‐‐普通ならば見えないはずのものが視えた。さっきまでは疑問に思わなかったけど、なぜアレが視えた? 普段は全く視えないもののはずなのに。

「もしかして、霊視を行っていることに気づかなんだか?」

呆然と立ちすくむアリサに、カオスは声をかける。アリサは、力なく頷くだけだった。

「この結界はある一定以上の霊力持ちなら入れるようになっておる。だから、ワシもマリアも居られるのじゃが……」

カオスの言葉は、これまで何回か聞いたことがあるものだった。

「それって、さっきの狼にも、横島さんっていうゴーストスイーパーの人に言われました……」

「なんと! 嬢ちゃんは横島の小僧と知り会っとたのか!」

「横島さんをご存じなんですか?」

「知ってるも何も、ワシは小僧の依頼でここにきたのじゃからな」

「依頼……」

「詳しいことは言えんがの。なるほど、そう言えば確かに小僧はそんなことを言っておった。それが嬢ちゃんだったのじゃな」

カオスはぽんと手を叩く。カオスは横島から、1人の少女を助けたことを聞いていた。今まで霊力らしきものを持っていなかったであろうこと、念のために精霊石を与えたことも聞いていた。おそらく、この少女がそうなのだろう。

「この結界と、精霊石とで目覚めたんじゃろうな。誘発するにはなかなかの環境じゃからの」

カオスは空を見上げる。結界が張られているその空は、相変わらず曇りのような様相を呈していた。

「ドクター・カオス」

マリアがカオスに声をかける。

「さっきの・狼が、向こうに・合流しました」

「ほう……では、行かねばならぬな」

「Yes」

カオスは身を翻した。そんなカオスに、アリサは慌てて声をかける。

「向こうって、もしかして町中の大きな力のことですか?」

「そうじゃが……そんなものまで感じ取っているのか?」

「感じるというか、視えるというか、そんな感じですけど……」

「まさか、な」

千里眼かとカオスは驚く。マリアには高性能の対霊力・対魔力レーダーが内蔵されているために感じ取ることができた。横島とほたるにしても、基本的には式神を通じて状況を把握している。霊視は確かに基礎的な霊能であるが、それほど遠くの状況までをも感じ取れるわけではないのだ。だが、その基礎的な霊能は、極めれば全てを見通す力‐‐‐‐千里眼となる。
しかし、千里眼はまさに神の領域であり、人がそうそうたどり着ける境地ではない。その領域の入り口に、目の前の少女が足を入れかけているかもしれないことに、カオスは驚いたのだ。

「はっきりとは分かりませんけど……何となくですけど……」

ぶつぶつと呟き驚くカオスをよそに、アリサは言葉を続ける。声はだんだんと小さくなるが、それもある意味仕方のないこと。アリサとて、確信を持ててるわけではない。だが、アリサには言わねばならぬことが、あった。

「だから……あたしも連れてってくれませんか? 向こうに、友達が、いるかもしれないんです」

 

スポンサーサイト



この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://mizuasa01.blog120.fc2.com/tb.php/26-f39a9dd1

0件のトラックバック

1件のコメント

[C10] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

カウンター

 

――――――――――――――

最近のトラックバック