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よこりりA’s:その15

その15

海鳴の空はその日も晴れていた。冬であるがために痛さすら感じる空気は、だからこそ天上と天下の煌めきをくっきりと浮かび上がらせる。星降る夜、そして宝石箱‐‐‐‐そんな言葉ぴたりと当てはまる景色。ヴィータはそんな景色を眺めるのが好きだった。

「はやてと一緒に見たいな……」

自分が好きな景色を、はやてにも見て貰いたい。はやてもきっと喜んでこの光景を見てくれるだろう。そう思うだけでヴィータの心は躍る。

ヴィータが見ている景色は、空を飛べる者の特権である。まだ闇の書の真の主として覚醒していないはやては、まだこの景色を見ることはできない。だが覚醒さえすれば‐‐‐‐

「これが終われば、いつでも見ることができる」

少し物思いにふけるヴィータに、ザフィーラは声をかける。

「そうだな。そのためにも早く終わらせないと。そのために……」

ヴィータは目をつぶり、全ての感覚を魔力の探知に向ける。

「この間から感じる魔力反応……妙に巨大なあれを、探す」

その声にザフィーラは頷く。ザフィーラとしても異存はない。この世界で敢えて騒ぎを起こす気はないものの、目の前に転がっている大きな獲物を放っておく手はなかった。

「あれだけあれば、20ページぐらいはすぐ行くだろうし」

感覚を研ぎ澄ませるヴィータの中に、さまざまな反応が飛び込んでくる。あまりもの反応の多さにヴィータは一瞬酔いそうになるも、すぐに余計な情報をそぎ落とし始める。

「どうだ? ヴィータ」

「いるような……いないような……」

とは言うものの、あまりにも雑音が多いため、目的の相手をなかなか捉えることができなかった。後方支援担当のシャマルならばはっきりと捉えられるのだろう。だが今ここにいない以上、贅沢は言ってられない。

そしてヴィータとザフィーラのもうひとつの懸念。

「シグナムがやり合ったというゴーストスイーパー。あれも存在が分かるようで分からないというか……」

ヴィータは霊力と呼ばれるものの感覚がいまひとつ掴めていない。ヴィータの感覚を一瞬酔わせたものこそが霊力なのだが、ヴィータはそのことに気づいていなかった。

「そうか」

ザフィーラとしてもそう言う他はない。もっとも、霊力に関して言えば、シャマルにしてもザフィーラにしても同じである。霊力の感覚をはっきり掴めるのは、今のところは直接対峙したシグナムひとりであった。

「一緒に動いても効率は悪い。ならば別れて探そう。闇の書は任せた」

感覚を捉え切れていないヴィータを見たザフィーラは、分散して相手を探すことを提案する。ヴィータとザフィーラはセットで動くことが多いが、だからといってずっとくっついて行動しているというわけではない。捜索範囲を絞り込んだ後は、効率のために別々に動くことも多かった。だからヴィータにしても異存はない。

「オッケー、ザフィーラ。あんたもしっかりとね」

「心得ている。だが無理はするな。昼間、結構やったのだからな」

そう言うとザフィーラはヴィータの視線の反対側へと身を翻した。

 

「……結界を張るか」

なかなか対処しきれない雑音に、ヴィータは少し苛立つ。普段ならばどうと言うことのないレベルの雑音であるが、この世界だけはそうもいかなかった。慣れない感覚も大挙して飛び込んでくるために、感覚がどうしてもそちらに引きずられてしまっている。

だが対応策があり、それは結界を張るということであった。結界を張ることによって広範囲の雑音を遮断し、併せて必要とする反応だけを中に押し込めれば良いのである。ただし、相手に自分の存在を教え、かつその対策を立てさせかねないと言うデメリットもある。場合によってはゴーストスイーパーを引っかけることすらあろう。だが、それはそれで願ったり叶ったりであった。向こうから来てくれれば手間も省けようというもの。

ヴィータは己のデバイスであるグラーフアイゼンを構えた。瞬間、ヴィータの足下に赤く発光する魔法陣が展開される。正三角形を基調とし、各頂点に円が描かれたそれは、ベルカ式と呼ばれる魔法体系特有の魔法陣である。

「封鎖領域、展開」

≪魔力封鎖≫

グラフーアイゼンの声と共に、結界が張られていった。基点はヴィータ、範囲は海鳴市街の全域。結界内の位相がずらされ、雑音が次々と結界内から消え去っていく。

ヴィータはグラーフアイゼンをアンテナのように水平に構え、目当ての反応を探し出す。そして‐‐‐‐

「……見つけた」

‐‐‐‐時折感じていた、巨大な魔力反応を感知した。

「行くよ、アイゼン」

≪了解≫

獲物は見つけた。ならば、あとは蒐集するのみ。ヴィータは反応の方へと飛び立った。

 

海鳴市街を覆うほどの結界である以上、放たれる魔力量も非常に大きい。そのため、魔力に対して敏感な者がいれば、それにすぐに気づくことができる。海鳴市の住人で気づいたのは3組。

なのは自室で机に向かっている最中であった。なのはが通う私立聖祥大学付属小学校は、レベルの高い学校である。当然ながら授業内容も近隣の公立学校に比べて高度であり、それなりの学力が要求される。そして、毎日出される宿題も、それなりに難易の高いものであった。

≪警告。緊急事態です。≫

宿題と格闘しているなのはに、レイジングハートが警告を発する。

「え?」

レイジングハートが何を警告しているのか分からなかったなのはだが、一瞬後に感じた魔力の波動に身体を堅くする。今部屋を突き抜けていった魔力の波動は、なのはには馴染みの深いものであった。

「結界!?」

半年前にジュエルシード探しをしていた時、ユーノがいつも張っていたもの。詳しいことはよく分からなかったが、結界内から魔力を持たないものを排除するためのものだと聞いている。そうすることにより、魔導師同士の戦闘や魔力の暴走などから無関係な人の犠牲を出さないようにするのだと言う。魔法のない世界で魔法を使う時には必須であり、これが張られる時は基本的にロストロギアが絡んでくる。
だから。

「またロストロギアが来てるの?」

なのはがそう思うのも無理はなかった。

なのははベッドに座り、窓の外を見る。窓の外には町の灯りは見えず、空にもまた星が見えない。代わりに、どこかくすんだような色合いの景色が広がっていた。それはまさしく、結界特有の色彩であった。

なぜ結界が張られたのか状況が掴めずに困惑しているなのはに、レイジングハートがさらに警告を発する。

≪対象、高速で接近中≫

「こっちに来る!?」

その警告になのはさらに困惑する。なぜ、となのはは思うものの、答えが出るわけではない。だが結界が張られ、その中に取り残され、そして結界を張った魔導師が近づいていると言う以上は、

‐‐‐‐こっちに近づいていると言うことは、わたしが目的なの?

と考えるのも当然であった。

‐‐‐‐ここにいたら、おとーさんやおかーさん、お兄ちゃん、お姉ちゃんが巻き込まれる!

脳裏に大けがをして入院した父の姿が蘇る。それは紛れもない恐怖だった。だからなのはは決断する。

「宿題はあと少しだし……それに」

なのははレイジングハートを首に下げ、上着を羽織る。

「ここにいたら危ないしね」

急いで家を飛び出した。

 

その時アリサは、部屋ですずかと通話中だった。

「フェイトってさ、今週ぐらいにこっちに来るんでしょう?」

『なのはちゃんはそう言ってたよ。すごく楽しみ』

「あたしもだよ」

『なのはちゃん、すっごく嬉しそうだったものね……』

「ほんとよね……」

アリサは、フェイトのことを話す時のなのはを思い出す。その時に見せる表情は、自分たちと一緒にいるときとはどこか違ったものだった。それにアリサは思わず嫉妬してしまったこともある。

フェイト・テスタロッサ。イタリアに住んでおり、どこで学んだのか日本語に堪能なのだという。外国とはあまり縁のなさそうななのはが、いつどこでフェイトと知り合ったのか、アリサもすずかも聞いていない。だが、なのはは5月頃からずっとフェイトと文通をしており、写真はおろかビデオの遣り取りまでをもしていることを2人とも知っていた。手紙や写真、ビデオの中には、なのはの家族はもちろん、アリサやすずかのことも含まれているためであった。

「一年ぐらいは会えないかもって言ってたのに、半年ぐらいで会えるようになるんだもの。そりゃあ嬉しくもなるよね」

フェイトが年末頃に来ると知ったなのはの喜びようと言ったら、それはそれは見ている側が呆れるほどのものだった。

‐‐‐‐まるで、長い間会っていない恋人に会うぐらいの勢いだったわね。

その尋常でない喜びように、何か特別な事情があるのではないかとアリサは思ったが、さすがにそこまでは聞かなかった。それよりも大切なのは、友達が喜んでいるということ、そしてその喜びを共有できるということなのだから。

『でも、フェイトちゃんと会う時って、どう挨拶すればいいのかな。始めましてというのも変な感じがするし……』

「ん…………」

難問と言えば難問だった。アリサとすずかは、フェイトからのビデオや写真を見ており、フェイトの顔を知っている。そしてフェイトにも、ビデオと写真を介して、アリサとすずかが紹介されていた。初対面なんだけど初対面じゃない、そんな認識具合が微妙だった。

「……はじめまして、でいいんじゃない?」

結局は無難な線に落ち着くのだ。

『そっか』

「それでね……」

すずかの話は次へと続く。今まですずかが図書館で見かけていた少女と話をしたこと。友達になったこと。その娘をみんなに紹介したいこと。受話器の向こうから聞こえてくるすずかの声はとても弾んでいた。

そして‐‐‐‐電話が突然切れた。

「あれ?」

通話を切った覚えはないのにと再度すずかに電話をかけてみるが、いっこうに繋がらない。液晶を見れば、アンテナはちゃんと3本立っていた。

「何が起こったんだろ」

瞬間、アリサは、身体を妙な波動が突き抜けたのを感じた。そして、胸元の精霊石が発光し、軽い発熱すら起こしていることに気づく。
ふと窓の外をみれば‐‐‐‐

「色あせている?」

その景色は、数日前にアリサが槙原動物病院周辺で見た景色と同じだった。

「まさか……結界?」

また悪霊が襲ってくるのではないかとアリサは身構えるが、幸いにして悪霊の気配は感じなかった。その代わり、ずっと遠い方に大きな力の固まりを3箇所に感じる。アリサはベランダに出ると、向こうに見えるはずの海鳴の市街を凝視した。

「これは……何なんだろ」

アリサが感じたのは、霊力っぽいけれども、霊力とは違う力であった。霊力の感覚は自分が目覚めているために馴染みとなっている上、最良の手本??横島とほたるを知っているため、間違いようがない。だが、そんなことはどうでも良かった。問題は‐‐‐‐

「……こっちに近づいてる?」

そのうちのひとつがアリサの方向に向かって動き始めたのを感じ、パニックに陥った。

 

横島とほたるは、カオス、マリアとともに話し込んでいた。議題はもちろん、今回の出来事に関することである。

「間違いなく、ばっちりじゃな」

「Yes。パターン・照合・完了。半年前の・反応と・同じです」

「やっぱりか」

カオスとマリアの言葉に、横島は肩を落とす。

翠屋を出た後、横島はほたる、カオス、マリアを夕べ襲われた場所へと連れて行っていた。結界が張られる程の魔力もどきならば、経験上残滓がまだ残っていると判断したためである。そしてその判断は、正しかったことが、今証明されたのである。

「となると……今回の出来事は半年前と関係していると言っていいのでしょうか?」

「わからん。そもそも半年前に何があったのかすらわからんしの」

「情報が少なすぎるんだよなぁ……」

ほたるの疑問は横島にとってももっともなものではあるが、カオスの判断もまたもっともであった。

「どうせ明日からまた動き回らないといけないけど、当てもなくというのは、勘弁だしなぁ」

除霊現場で何時間も、あるいは夜通し、場合によっては何日も待機と監視というのは、美神所霊事務所時代でも行っている。しかし今回のように見通しの立たない依頼というのはそうあるわけではない。香港の時ですら、当てはなかったものの対象と目的ははっきりしていたのだから。

「まぁ、気長にやるしかないでしょう。そのうち向こうから接触もある、はず……」

ほたるは急に口を閉ざすと、窓の方に振り向いた。目つきは厳しく、口元は堅く引き締められている。横島もまた表情を引き締めていた。

「魔力もどきの・反応を・感知。急速に・拡大中。後10秒で・接触」

マリアの発した警告に、カオスも厳しい目つきを窓の外に向ける。

「小僧!」

「わーってる! 式神も感知したっ!」

数秒後、魔力もどきの波動が部屋を突き抜ける。窓の外では人の気配が消え去り、あれほど瞬いてた星も消え去っていた。さらに結界を張らんと横島はほたるを見るが、横島に言われるまでもなくほたるは結界を張っていた。結界を張ることで、相手の索敵から逃れるためであった。

「……雰囲気としては動物病院の時と一緒ですね」

式神からの情報を整理したほたるが告げる。

「無限回廊化していないのが救いですが、範囲はとにかく広いようです。それに、堅い」

「おヌシが夕べやり合った時も、こんな感じだったのか?」

横島は頷く。

「やれやれ、老骨にはちと堪えることになりそうじゃな」

そうは言うものの、カオスは不敵な笑みを浮かべる。未知なる現象を目前に、むしろ心が踊っていた。

「反応が・4。魔力もどきが・3、霊力が・1」

「2つは高速で移動中。空でも飛んでいそうな勢いですね。残りのひとつは走っている程度の早さです。霊力の方は、一箇所にとどまっています」

ほたるが報告を引き継ぐ。

「あ、高速で動いている方に動きありです。ひとつは霊力の方へ、もうひとつは魔力もどきの方へと向かい始めましたね」

「なぁんか一気に動き始めたなぁ……」

横島は大きな溜め息を付く。

「でもまあ、折角だから行くかぁ。マリアは霊力の方を頼む。相手の確認と、保護な。それとじーさん、これ」

横島はカオスに文珠を渡した。文珠には既に気配【遮】断の字が込められている。

「念のためにもうひとつ渡しておく」

「ふむ、これは有り難い。では行くかの、マリア」

「Yes、ドクター・カオス」

カオスはマリアを促し、立ち上がる。

「……じーさん」

横島はそんなカオスを呼び止めた。

「なんじゃ」

「ちゃんと玄関から出ろよ」

「…………わかっとる」

マリアとカオスが玄関から飛び立ったのを見送った後、横島とほたるも部屋を後にした。

 

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