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よこりりA’s:その10

その10

横島とほたるが海鳴に来て数日が経過していた。

「風光明媚、適度な都会、生活するには案外といいところかもな」

海鳴市は郊外型というよりは地方小都市の色合いを残し、東京へも適度な距離にある。必要な生活道具も基本的に市内の店舗で賄うことができ、敢えて遠くの都市へ出る必要もない。

「……こういうところで事務所開くのもありだなぁ……」

そう呟く横島の表情は、どこか晴れ晴れとしたものだった。だが、その視線は不思議と定まっていない。なぜか中空をさまよっていた。

「マスター……現実逃避をしたくなるのはわかりますが……」

そんな横島に呆れたように、ほたるは目の前に一通のリストを突きつける。

「まずは現実を見据えなくては」

それは、この数日間で付け加えられた新たな魔力もどき感知リストであった。

海鳴に来てからの数日間は、美智恵から貰ったリストを基に市内を動き回り、魔力もどきの残滓箇所をひとつひとつ確認している。いくつかの地点では現在でも魔力もどきの残滓を確認したものの、槙原動物病院や海鳴臨海公園ほどに逼迫したものではなかった。もっとも、念のため簡単な浄化作業は行ってはいるが。そして、それだけならば、ひとまず依頼完了として美智恵に報告するだけであった。だが、ここで新たな事態に直面する。

「なぁ、リストは一応全部見終わったんだよな」

突きつけられたリストを眺める横島の声は、どこか投げやりだった。

「そのはずですが……」

ほたるの歯切れは悪い。

「じゃあさ」

横島は一端言葉を句切る。

「魔力もどきの反応がやけに多いのは、なぜだ?」

「なぜでしょう……」

尋ねられたほたるにも答えがあるわけではなく、言葉に詰まる。

「式神の誤反応……ということはないよな?」

「ない、と思いたいですが……」

「一体何が起こっているんだ?」

有り体に言えば、2人は困惑していた。
これが、横島の視線が宙をさまよっていた理由である。

事の発端は、ほたるの放った式神が魔力もどきそのものを捉えたことであった。もともとは美智恵のリストから漏れたであろう残滓を捉えるための式神は、現在進行中の魔力もどきを捉えてしまったのである。一度や二度ならば横島もほたるも気にはしなかっただろう。だが、残滓というよりは発動中と言って良いそれは常に4つほどが感知され、しかも時間帯は基本的に深夜に集中していた。しかも短時間の内に複数地点での跳躍痕跡が確認されるため、具体的な方角や中心地などまでは感知しきれていない。

それでも朝方に桜台で感知されるなのはの魔力もどきほどに素直なものならば、やはり2人はさほど気にしなかっただろう。だが深夜のそれは、明らかに何かを隠蔽し、警戒しているその動きである。そのことに2人は警戒感と不快感とを禁じ得なかった。

しかも、問題はそれだけではなかった。

「還された式神もある。ちょっとシャレにならんぞ」

ここ数日、探知用の式神が何体か“還されて”いる。それ自体が大問題であった。式神の存在を一般人が感知することはまずあり得ない。術者ですら、そう簡単に感知することはできない。だが式神が還されたということは、相手がこちらの式神を明確に感知していることを意味する。

そして問題は‐‐‐‐

「誰が還した?」

「式神からの画は基本的に妨害されていますからねぇ」

「でもまあ、断片があるだけでもありがたいけどな」

‐‐‐‐と言うことであった。

横島とほたるが式神から受け取った画は非常に断片的なものでしかない。緋色の長い髪、炎を纏った剣、長い三つ編み、金槌のようなもの、何か動物のような耳と白髪、そして翠色の服。これだけでは何が何だかさっぱりわからないというのが、正直なところである。

とは言え‐‐‐‐

「美人のねーちゃんっぽいのも気になるんだよなぁ」

「マ、ス、ター?」

途端に、ほたるの声に険が混ざった。

「あ、いや」

ほたるの背後に夜叉を見た横島は、慌てて大まじめであることをアピールする。

「だってさ、メドーサとかグーラーとか美衣さんとかの時もさ、そんな感じだったから」

「…………」

大きな汗を浮かべる横島を、ほたるはジト目で見つめる。その圧力に抗するように、横島は言葉を続ける。

「いや、本当に美人のねーちゃんだとしたらどうしようかと……」

ほたるの圧力はさらに増大した。

「えっとね……いや、なんでもないです」

‐‐‐‐かのように、ヒントが無いわけではなかった。

「……まあ、いいです。取り敢えず話を戻します」

横島は引きつった笑みを浮かべて頷く。

「問題は、向こうからこちらのラインを辿られているかもしれないってことです」

「……だよなぁ」

2人して大きなため息をついた。

式神は術者の目となり手となるために、術者と密接に繋がっている。要は外的に拡張された感覚器官なのだ。カメラと受像器との間に有線・無線が繋がれているように、式神と術者との間にも見えないラインが繋がっている。その繋がりを辿ることができれば、相手の居場所を特定することも可能である。そのための、重大な問題であった。

これが東京の本拠地であれば、いくらでも対策の立てようはある。何せ住まいはもちろんのこと、その周辺にも何重もの結界を張っているのだから。オカルトGメンが結界破壊車輌を全部持ち出したって、そう簡単に破られない自信はある。

だが今いる場所は、今回の依頼のためだけに借り上げた場所であって、長居をするためではない。張ってある結界も極めて簡単なものでしかなく、万が一襲われた時に若干不安が残る。

「このまま放っておいて東京に戻っても、向こうまで付いてこられる可能性もあるしなぁ」

逆に相手がこちら側を視ている可能性もあった。そのため、海鳴で決着を付けなくてはならないと言うことになる。

「……学校、どうしよ」

切実な問題であった。

とは言え、事態が深刻な方向へと動き始めた以上、中間報告はしなくてはならない。

「……とまぁ、言うわけです」

横島は美智恵に連絡を取り、事態がややこしい方向へ進んでいることを告げる。

『そう、それは困ったわね……』

美智恵の溜め息が、受話器越しでも聞こえてくる。

「現在確認される魔力もどきは4つ。ほぼ毎晩確認しています。放った式神も彼らに還されてますし、念のためしばらくこっちにいる予定です」

横島は現状を伝える。もちろん全てを伝えたわけではない。槙原動物病院と海鳴臨海公園、その他については美智恵に報告したものの、なのはのことまでは伝えていない。

「魔力もどきの反応だけなら大して問題はないんですけど、式神還されちゃってますからねぇ……敵として認識されている可能性高いです。それに、念のための浄化も必要になりましょうし」

美智恵の溜め息が再び聞こえる。電話の向こうで、美智恵が頭を抱えている姿が容易に想像できた。

『横島クン、オカGからの正式依頼とするわ。現状を見極めて、もし犯罪が起きそうだったら阻止して貰えるかしら』

「わかりました。どちらにしても、しばらくはこっちにいないといけませんし」

『……迷惑、かけるわね……』

「まあ、こればっかりは仕方ないっすよ」

ただの事前調査、予備調査、念のための調査が、結局は本格的な調査になってしまうことは良くある話である。

しばらく事務的な遣り取りをした後、横島は受話器を置いた。

「やっぱこうなってしまったよ……」

「まぁ、仕方のないところですね」

横島の声に疲れが混じるも、なってしまったものは仕方がなかった。すぐに思考を切り替え、次への道筋を立てる。そしてすべき事はひとつ、現在進行中の魔力もどき反応の厳密な特定であった。

「ほたるは一端東京に戻って、マリアを連れてきてくれないか? もう東京に戻ってきているらしい」

もともと魔力もどきを感知したのはマリアである。そしてマリアならば、複雑な痕跡を追跡することも可能だろう。そう考えた横島は、ほたるにそう指示した。

「ドクターカオスはよろしいのですか?」

「マリアが来ればじーさんも付いてくるだろ」

「……確かに」

「じーさんにはこっちから連絡を入れておくから。取り合えずこれに乗れば‐‐‐‐」

横島はぱらぱらと時刻表をめくり、電車の時間を確認する。

「‐‐‐‐夕方ぐらいには着くな」

「そんなに遅くて構わないんですか?」

「明日の午前中に戻ってきてくれればいいよ」

「わかりました。」

「……しっかし、一体何が起きているんだろうね」

横島はひとりごちる。何かが起きているのは間違いない。しかし、その何かの正体がわからない。

横島は立ち上がると、おもむろに窓を開けた。冬の冷たい空気が室内に流れ込む。漠然と感じる不安を体現したかのような冷たさであった。

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