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よこりりA’s:その9

その9

時間にしてお昼過ぎ、昼食時の混雑も一段落した頃。アリサは友人2人‐‐‐‐高町なのはと月村すずかと共に翠屋のオープンテラスに居た。海鳴駅からほど近い商店街に位置するこの喫茶店は、情報誌の全国誌版に掲載されるほどに有名な喫茶店である。それだけに、一日中それなりの賑わいを見せている。だが、それとても昼の混雑を避ければ、席を取れないことはないのだ。

「……というわけで、昨日は大変だったのよ……」

友人2人と会ったアリサは、昨日の体験を話すこととなった。なのはがアリサの胸元を飾るペンダントを見て“恋人”からのプレゼントだと騒ぎ、すずかはすずかでそのペンダントトップを精霊石と知って絶句したためである。月村家は日本を代表する実業家でもあり、しかも実家が実家であるために、すずかは精霊石が何であるのかを知っていたのだ。

「ごめんね、アリサちゃん。あの時急用が入ってなければよかったのに……」

アリサの恐怖体験にすずかは労りの言葉をかける。

一方なのははと言えば、

「なのはってさ、こういう話苦手だったっけ」

と言われる程に引きつった笑みを浮かべていた。

なのはは怖い話が苦手である。怪談話をしたり聞いたり、ホラー映画を見たりすることはあるが、それでも怖いものは怖い。だが、なのはの笑みが引きつっているのは、アリサの”恐怖体験”だけのせいではなかった。恐怖体験の中に出てきたキーワード、すなわち槙原動物病院という言葉に敏感に反応したためである。

“槙原動物病院”という言葉は、高町なのはと言う少女にとって大きな意味を持っている。それは、生涯変わることはない。

何せ槙原動物病院と言えば、なのはが初めて魔法に触れた場所であり、ユーノ・スクライアからレイジングハートを譲り受けた場所であり、ジュエルシードと呼ばれるロストロギアの一種を封印した場所であり、何より綺麗な髪と瞳の女の子??フェイト・テスタロッサとの出会いのきっかけにもなった場所であったのだから。つまりは、“平凡な小学3年生”から“魔法少女”へと全てが一気に切り替わった場所であった。

「霊力なんて目覚めちゃって、アリサちゃんは大丈夫なの?」

当然そんなことを言えないなのはは、誤魔化すかのように話題を変える。もっともこれはなのはにも興味のある話であった。霊力ではないが、魔法に目覚めた頃のなのはは、魔力の感覚に振り回された経験がある。その感覚に慣れるまでは、いろいろと苦労したものだった。

「ん……目覚めたと言っても実感ないんだけどねーーー」

胸元の精霊石を弄びながらアリサは言う。

「気怠さはあるけど、それは寝ればだいたい快復するし」

「そうなの?」

「うん。あとは、精霊石を握っていると、暖かさを感じることぐらいかな」

そのことに興味を持ったなのはは、アリサに頼んで精霊石を触らせて貰う。だが、その暖かさを感じ取ることはできなかった。

「なのはちゃん、精霊石って基本的に霊力を持っている人に反応するんだって。アリサちゃんがそう感じるってことはアリサちゃんが霊力を持っているからなのかもしれないし、なのはちゃんが感じないのは霊力がないからなのかもしれないよ?」

「そうかもしれないね」

本当にそうなのかは実際に魔力を籠めて握ってみる必要があるが、そんなことをしたらどういうことになるのか、なのはには想像も付かない。試すわけにはいかない以上、すずかの言うとおりだということにしておいた。

「それにしても」

すずかはアリサの精霊石に目を向ける。

「精霊石を渡すなんて、その人ずいぶんと凄いね」

その視線は羨ましさそのもの。精霊石はアクセサリーとしても非常に貴重なものであるため、すずかとしても気にはなるのだ。

「……あたしもそう思うわ」

その視線を知ってか知らずか、アリサは呆れ口調で言う。

「そうなの?」

なのははと言えば、精霊石のことを良く知らないために、首を傾げるのみだった。

「精霊石って、一級のオカルトアイテムって言われてるの。大西洋にザンス王国というのがあって、ほとんどそこでしか産出してないんですって」

「で、精霊石というのはものすごく高価な宝石で、ちょっとした大きさでも、何億もするんだって」

そんななのはに、すずかとアリサは精霊石の何たるかを解説する。

「何億……」

なのははまだ、100万円が大金持ちの基準となっているような年代である。億という単位は、想像を絶する単位であった。わかるのは、取り敢えず凄い額だという事ぐらいであった。もっともその辺の事情は、実家が大金持ちなアリサとすずかも、実はそうは変わらない。

「そんな高価な宝石を預けるなんて、確かに凄い人かも。でもなぜ渡したんだろうね」

「……わからない」

今度はアリサが首を横に振る番である。

「その人は、俺が持っていてもあまり意味はない、なんてことを言っていたけど……」

「意味はないけど、持ってはいるんだ。変な人だね」

「あたしもそう思うわ……」

そう言って大きなため息をついたアリサの視界に、ふと見知った人物が入る。

「……あれ?」

アリサは思わずそちらの方に目を遣る。そこにいたのは少年と少女の2人組。赤いバンダナを巻いている少年は、両手に大きな荷物を抱えて疲れ切った表情を見せていた。
一方銀髪の少女は少年の一歩前におり、実に嬉しそうに歩いている。時折後ろを向いて少年に何か話しかけてもいた。

「……何をやっているんだろ」

突然押し黙ったアリサになのはとすずかは首を傾げ、次いでアリサの視線の先に目を遣る。そして、なのはとすずかもまた、その2人組を見ることとなった。

「わ、綺麗な人がいる」

「ほんとだ……」

なのはとすずかは感嘆の声を上げる。実際に美少女と言えるであろうその少女は、回りからの視線を浴びていることがオープンテラスからも見て取れた。もっとも、当の少女はそのことに全く頓着しているようには見えなかったが。

「まるでフィリス先生みたいだね」

小柄で銀髪というその姿に、なのはは高町家‐‐‐‐主に父と兄・姉‐‐‐‐の主治医を思い浮かべる。

「で、アリサちゃん、あの人達がどうかしたの?」

「あの人達が昨日助けてくれたゴーストスイーパーなんだけど……」

なのはとすずかの問いかけに、アリサは答える。

「なんかデートでもしているような雰囲気だわ」

‐‐‐‐馬に蹴られて死んでしまえ。

なぜかそんなことわざがアリサの脳裏に浮かぶ。

「言われてみればそう見えるわよね」

ゴーストスイーパーと言うよりはカップルと言われた方がすっきりする。すずかはそんな感想を漏らす。

「でも、あの人達がアリサちゃんを助けてくれて、その精霊石っていうのをくれたんでしょう?」

なのははユーノからレイジングハートを譲り受けた時のことを思い出していた。

「貰ったわけではないけどね」

アリサは肩をすくめるも、なのはの認識は変わらない。そして、そんなことはなのはとすずかにとってどうでもよい事でもあった。それ以上に大切なのは‐‐‐‐

「アリサちゃん、せっかくだし、あの人たちとお話しできない?」

「そうしましょうよ、アリサちゃん」

‐‐‐‐新しい刺激を得ることであった。

「一応、仕事中なんじゃないの?」

なのはとすずかの提案に、アリサは一応反論してみるが‐‐‐‐

「たぶん今日はお休みなんじゃないかなぁ。日曜日だし」

「そうよ。単なるお買い物にしか見えないもの」

‐‐‐‐あっさりと拒否される。

もっとも、あの2人の様子はなのはとすずかの言う通りだとアリサは思う。そのため、最終的になのはとすずかの提案に、アリサは乗ることにした。ここで会ったのも何かの縁であろうし、向こうが気づいていないからと言って、気が付かないふりをするのも失礼なような気がしたためでもあった。

 

「ったく」

部屋に戻った横島は、今日も今日とて疲れ切っていた。もっとも今日の疲れは、昨日のそれと違って純粋に精神的な疲れである。

「……今日は見て回るんじゃなかったっけ」

あははははと何かを誤魔化すかのように笑うほたるを、横島は半目で睨む。

「……ま、いいけど」

大きくため息をつくと、視線を天井へと遣った。

「別件も入っちゃったしなぁ……」

言うまでもなく、アリサのアフターケアの話である。もっとも、まだアリサの保護者から話が来ていないため正式な依頼として扱うことはできない。だが、噂に聞くバニングス家ならば、直接話が来るのも結局は時間の問題である。

「当面は仕事には困らんし。それに」

横島の顔つきが真剣なものへと変わる。

「収穫はあったからいいけどな。……世の中って、広いようで狭いな」

「全くです」

今日2人は、リストに記載された場所を見て回る予定だった。のだが、せっかくの天気だししかも商店街や繁華街を通るのだからというほたるの一言で、ついでに買い物もするということになってしまう。結局は買い物が主目的となり、横島は両手に大荷物を抱えて移動する羽目になった。大荷物を抱えての移動に横島はなんとなく美神除霊事務所時代を思い出すも、結局はそういう星の巡りかと溜め息を付くのみだった。

そして、海鳴スイーツ情報を仕入れていたほたるは、横島を引き連れて有名喫茶店という翠屋へと向かう。買い物に引きづり回されて疲れ切っていた横島は、ひとまず休めるのならばとおとなしくほたるについて行った。しかし、そこで2人は思いがけない人物に声をかけられる。それは、昨日たまたま助けた少女‐‐‐‐アリサ・バニングスであった。

アリサはその友人‐‐‐‐高町なのはと月村すずかと一緒にいた。混雑する時間帯は過ぎていたものの、名の知れた翠屋であるために客‐‐‐‐主に女性‐‐‐‐でごった返していたため、横島とほたるはアリサ・なのは・すずかと済し崩し的に相席となる。そして、ゴーストスイーパーという仕事に、さらには横島とほたるとの関係に興味を持った3人から質問攻めされるという、事態に陥ったのである。

相手が男だったら、横島は問答無用で立ち去るか適当にはぐらかすか実力行使に出るかしていたであろうし、守備範囲内の女性だったら喜んでいくらでも相手にしていたであろう。
場合によってはいらぬことまで喋っていたかもしれない。しかし、将来性高い美少女とは言え相手はまだ小学生、それも年齢が一桁の少女である。どうしても言葉を選び、内容を選ばなくてはならなかった。これは想像以上に骨の折れることである。

だが、それなりの収穫もあった。

「あの娘、高町なのはちゃんと言ったっけか、なぜあの娘から魔力もどきを感じたんだろうな」

「さぁ?」

横島の疑問はほたるの疑問でもある。

アリサ・なのは・すずかと相席になり、ああだこうだと弄られながらも横島とほたるは気づいた。高町なのはと名乗った少女から、昨日感じた馴染み深い力‐‐‐‐魔力もどきの気配を感じることに。横島とほたるは一瞬の目配せの後、さりげなさを装ってなのはを観察し、霊視する。

海鳴で初めて知った魔力もどきの感覚は、横島とほたるの知る魔力と若干質が異なっている。しかし、そう言うものがあると知れば存在を感じ取れることはできるし、そうである以上は力の流れやその強弱を視ることもできる。

その結果判明したのは、なのはにまとわりついている魔力もどきは残滓ではなく魔力もどきそのものであること、その力は霊力を基準にしても一流と言えるほどであること、そして胸元に見える紅い宝玉はどうやらオカルトアイテムの類らしいということであった。

「あれだけの魔力もどきを纏っているとなると、それだけで悪霊の餌食になりかねんと思ったんだがなぁ」

昨日の例を踏まえれば、そうならない方がおかしいと横島は考える。

「どうやら、その辺の防御はできているんでしょうね」

たぶん無意識にでしょうけどとほたるは付け加える。

「アリサちゃんの触発も、たぶんなのはちゃんがきっかけなんでしょうね」

「となると、もうひとり、月村すずかちゃんと言ったっけか、あの娘も別な意味で危険かもしれないな。あの“月村”ならばな」

「そうですね」

横島の危惧にほたるも同意する。すずかはと言えば霊力を隠していたものの、2人はそのことに気づいた。だが、一流とも称される2人にすれば、すずかの隠し方はまだまだ稚拙と言って良い。

もっとも、それ自体はどうでもよかった。問題は、アリサ同様に触発されたすずかの霊力が、それまでの隠し方では対処しきれないほどのレベルに目覚めてしまう可能性があることだった。

「だからと言って、具体的に調べさせてくれとは言えんし」

言ったら言ったで何か犯罪チックになるから嫌だと横島は呟く。それでも、すずかの件はどうにかなる。あの“月村”ならば、あちらでどうにか対処するはずなのだから。だが、どう見ても一般人そのもののなのはについては、見過ごすことはできない。

「かと言って、無視できないしなぁ……」

今回の依頼に繋がる可能性が出てきた、折角の糸口でもある。

そして、横島にはもうひとつの懸念もあった。

「もしかしたら、あの宝玉が遺産なのかもしれないな」

もしかしたら今回の依頼のキーワードになりかねないもの。なのはの魔力もどきの流れを見る限り、あの宝玉がなのはの魔力もどきを引き出し制御しているのは間違いなかろうと横島は推測する。一流とも言える魔力もどきを制御するオカルトアイテムとなれば、それ自身もまた一級品と見て間違いない。

「さぁ、さすがにそこまでは……ただ遺産だとしたら、とんでもないことになりますけど」

今日の会話から、なのはにオカルト知識はないことを2人は感じ取っていた。紅い宝玉が仮に遺産だとしても、それが遺産であることを知らないだろうし、そもそも遺産が何であるのかすら知らないはずである。万が一それが遺産だったとき、いろいろな意味でなのはに危険が降りかかる可能性も出てくる。まず想定されるのは遺産の暴走であり、次いで遺産目当ての盗掘者の襲撃であった。昨日アリサが巻き込まれたような事態には、どうやら巻き込まれずに済みそうなことだけが、唯一の救いである。

「まぁ、今日の反応を見ている限りでは、暴走する可能性は少ないような気はするけど……」

「それでも万が一は想定すべきでしょう。予断は禁物です。彼女の身辺警護も兼ねて、式神を2?3体回しましょう。……宝玉が反応しなければ良いですけど」

「そうだな……」

あの宝玉が霊力に対して敏感に反応してしまう可能性は高い。暴走とまでは行かなくてもなのはがが危険に陥る可能性は否めず、それは避けなくてはならない。

「宝玉の反応範囲を見極めつつ、式神の感応範囲を見極めつつ、か。面倒なことになりそうだ。面倒だとは思うけど、頼むわ」

「了解、マスター」

 

後日、式神を通じてなのはが魔力もどきと宝玉を制御していること、しかもその制御が緻密であることを知る。しかもその魔力もどきが、まるで霊波砲のような砲撃弾として機能していること、しかも精密な弾道コントロールが施されている事を知り、2人は絶句した。

「……一度、話を聞いた方がいいのかねぇ」

「どうやってですか?」

それが最大の難問だと、横島は思う。高校生がいきなり小学生に語りかけるの図は、なんとしても避けたい所であった。

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