fc2ブログ

Entries

よこりりA’s:その7

その7

昼はあれほどにぎわっていた公園も、夜ともなれば人気もめっきりと少なくなる。まして深夜に近いこの時間ならば、なおのこと。

その海鳴臨海公園の一角に、正三角形を基調とし、それぞれの頂点に円を描く魔法陣が紫色に輝きながら現れる。発光と魔法陣が消え去った後には、そこには一人の女性がいた。年の頃は19・20歳ほど、腰を越えてさらに長い緋色の髪をポニーテールに纏めている。間違いなく美人と言われる程の女性であり、しかも凛という表現の似合う女性でもあった。しかし今は、困惑と言って良い表情を浮かべている。

「やはり魔力とは少し違う……この気配、一体何なんだ?」

昼間、突如大きな力のうねりを感じた。突然生まれ、数分後に突然消えたその力の痕跡を追ってようやく辿り着いたのが、海鳴臨海公園と、もう一箇所であった。海鳴臨海公園にはこの女性が、もう一箇所には仲間が向かっている。

女性は考える。思えば思うほど不思議だった。こちらに来て約半年、海鳴市と呼ばれる地域のあちこちで、なぜか自分たちになじみ深い力の痕跡を感じる事が多かった。この場所も、もう一箇所もそう言った場所のひとつ。しかもこの場所の力の痕跡は、別の力によって浄化されている。

また、朝方に強烈な力の迸りを感じる事もある。それはこれまで感じたような残滓ではなく、間違いなく現在進行中の力の行使であった。

半年前から得続けていた情報では、ここはそう言った力とは無縁の場所のはずだった。だがそれは、自分の認識不足だったのだろうかと思い悩む。

『シグナム、どう? 何か感じて?』

突如呼びかけられたその声に、シグナムと呼ばれた女性は、思考を中断する。

『シャマルか。ここに来るとよくわかる』

シグナムは“会話”をしながら、慎重に力の正体を探っていた。

『これは、魔力に似た“何か”だ』

シグナムの耳が声を捉えているのではなく、シグナムの声帯が言葉を伝えているわけではない。全ては、頭の中で行われている。

シグナムが仲間の女性と行っているのは念話と呼ばれるものであり、声に出すことなく言葉を遣り取りをしている。この上位版になると、イメージや感覚、自分の見ている光景を相手に伝えることも可能になる。しかも、念話を行う相手を限定することもできる。いわば通信機とも言うべきこの能力は、シグナム達が使う技術‐‐‐‐魔法の一種であり、基礎的なものでもある。

『そう……こちらでも確認したわ。これも、魔力に似た“何か”よ。そっちと同じもののようね』

シグナムから魔力もどきの感覚を受け取った女性??シャマルは、両者を同じものとして判断する。

『……もしかしたら、これが霊力というやつなのかもしれないな』

魔力に似た、しかし魔力ではない力となれば、シグナムが思い当たるのはそれしかなかった。そのためか、シグナムの目つきが自然と険しくなっていく。

『霊力って……この世界の住人が使う、不思議な力、だったわね。それはあり得るわ』

シャマルにしても、それしか思い当たる節がなかった。故にシャマルは同意する。

シグナム達はもともとこの世界の住人ではない。次元世界と呼ばれる、この世界を含むさまざまな世界の集合体の世界の住人であり、長い間あちこちの世界を渡り歩いてきた。

次元世界の特徴は、魔法‐‐‐‐魔力によって物理法則を制御する技術体系‐‐‐‐を文明の根幹としていることにある。大規模な魔法になると機械的に補佐され制御されることが多くなるものの、魔法は基本的に属人的な技術である。そのため次元世界の住人は、程度・威力の差こそあれ魔法を扱うことができる。もちろん、次元世界の住人であるシグナム達も、魔法の遣い手であった。それも、尋常ならざるほどの遣い手である。

しかし、次元世界全てで魔法が使われている訳ではない。魔法が使われていない世界というのも、少ないながらも確認されており、そのような魔法と無縁な世界は管理外世界と呼称されている。そして魔法と無縁の世界であるがために、その世界の内情は次元世界にはあまり知られていない。だからこそ、管理“外”世界と呼ばれている。シグナム達が今居る世界は、まさにそう言う世界であった。

そのためシグナム達がこの世界に来て約半年は、この世界の知識を押さえることに重点が置かれていた。もっとも、ある意味旅人とも言えるシグナム達は、新しい世界に来ると必ず情報収集を行うことを通例としている。政治、経済、文化と言った情報を知ることは、その世界で生きていくために必須であった。それは既知の次元世界と言えども例外ではなく、今回のよう事実上未知とも言える世界では尚更である。どれほど既知の世界であろうとも、実際にその土地に居て初めて知る事実というのも、案外と多い。今回の“霊力”もまた、そう言った類の情報であった。

『でも、誰もが使えるとは聞いてないわ。もしかして、ゴーストスイーパーというのが来たのかしら?』

“霊力”という情報としては知っていても、まだ実体験ではないために、シャマルには確信が持てていない。

『……かも、しれないな』

それはシグナムにとっても同じである。

そもそもこの世界は、さまざまな世界を渡ってきたシグナム達をしても異色としか言いようのない世界であった。技術レベルは次元世界に劣るものの、経済的・文化的水準はさほど変わらない。それにも関わらず、幽霊や妖怪と言った魑魅魍魎が現実に跋扈し、それらを相手にするゴーストスイーパーと言う職業が国家資格になっていると言う。そして、そういう存在を相手にするときは、霊力と呼ばれる力を使っているということも知った。また、魔法と呼ばれるものが存在するらしいことも知ったが、それは自分達の知る魔法とは違っていることも知った。

なにより、神や魔と呼ばれる存在が実在し、しかも神界・魔界と呼ばれる世界があると知ったときは衝撃すら覚えた。神界・魔界などは、もしかしたら、次元世界のさらに上位に位置しかねない世界である。しかもその魔界の王の一柱が、今自分たちの住むこの世界に侵攻をかけ、しかもそれを人間達が撃退したとなればなおさらであった。この事件は、次元世界レベルで見ても間違いなく神話級の大事件であり、通常ならば荒唐無稽の一言で片づけられるべきものである。

おそらく、次元世界の魔法ではそう言った存在を退けることはできても倒すことはできないであろう事に、シグナム達は気づいている。シグナム達にとって、幽霊や妖怪と言った存在はおとぎ話の中でしかなく、神や魔ともなればなおさらである。そうである以上、シグナム達はおとぎ話的存在を相手にする技術を持っていない、否、持ちようがなかった。次元世界の魔法は、あくまでも魔力を媒介として物理法則を制御する技術体系なのであって、幽霊や妖怪と言った魑魅魍魎を相手にする技術体系ではない。そもそも、シグナム達の魔力がそう言った存在に対してどの程度有効なのかすら不明であった。

だが、この力が魔力であろうが霊力であろうか、彼女たちの目的はひとつしかない。大事なことはあくまでもひとつだけである。

『蒐集はできそうか?』

『できると思うわ。仮に霊力だとしても、魔力に近しい以上、何らかの形でリンカーコアは存在していると思うから』

『……そうか』

シグナム達の目的は、魔導師ならば誰もが持っているリンカーコアを蒐集することにある。そして、この1ヶ月あまり、何人もの魔導師を襲撃し、リンカーコアを蒐集してきた。
蒐集できるのならば、その質までを問わない。

しかしリンカーコアを蒐集するためには、その持ち主である魔導師を襲撃する必要がある。と言うのも、リンカーコアは魔力の源であると同時に、その持ち主の使う魔法をも記録している。つまりリンカーコアを蒐集すると言うことは、魔法そのものを蒐集することに等しかった。魔法が属人的な技術、つまりは個人財産でもある以上、そのようなことに協力する魔導師はいない。そうである以上、襲撃は必然と言えよう。

言われるまでもなく、襲撃が犯罪であることはシグナムもシャマルも知っている。そして、そのような犯罪を取り締まる機関として、次元世界には時空管理局と呼ばれる警察・司法機関が存在する。これまでシグナム達は、蒐集を巡り、時空管理局と何度も渡り合ってきた。今回の蒐集はまだ時空管理局には知られていないものの、そう遠くないうちにまた渡り合う事になるだろうことを、シグナムは覚悟している。時空管理局は、決して無能な集団ではない。

『シグナム、ゴーストスイーパーの相手はできて?』

それはシグナム達の一番の懸念であった。

これまでシグナム達は、この世界でリンカーコアを蒐集することだけは避けてきた。そもそもが、この世界の住人がリンカーコアをどの程度持っているのかすら、シグナム達は知らない。

だが今は事情が変わり、この世界であっても可能ならば蒐集せざるを得なくなっている。そうなれば、まず対象として挙げられるのが、この世界の魔導師??ゴーストスイーパーであった。

『正直、試してみないとわからないな。だが、我らとてベルカの騎士。一対一ならば負けはしない』

シグナムの答えは決まり切ったものであった。シグナム達はベルカの騎士を名乗る。ベルカの騎士とは、戦闘技術・能力が一級の魔法騎士のみに与えられる称号である。
そうである以上、シグナム達に負けは許されない。それがベルカの騎士を名乗る者の矜持である。

だが問題は、勝つか負けるかではなかった。次元世界に時空管理局があるように、この世界にもオカルト犯罪を取り締まる警察機構‐‐‐‐ICPO超常現象課、通称オカルトGメン‐‐‐‐が存在する。ゴーストスイーパーの管理機構であるGS協会もまた、大きな自浄抑制機構として働いている。この世界の人間を蒐集対象にすると言うことは、この世界ではオカルト犯罪として捉えられる可能性が高かった。となれば、この世界での蒐集はこういった警察機構や管理機構と事を構える事を意味する。

自分たちが負けるとは思わないが、だからと言って敢えて波風を立てる必要はない。この世界が現在の拠点である以上、波風を立てずに済むのなら、それに越したことはなかった。しかし、今はそうも言っていられない事態に突入しつつある。

『これだけの魔力、いや霊力か、蒐集できるのならば、10ページ20ページは稼げよう。それに、時折感じるもうひとつの力も、蒐集できればそれぐらいは行こう。そうすれば、我らの悲願達成も近い』

『そうね。早く終わらせましょう……』

『だが、このこと知られれば主は怒られるだろう。我らはもちろんのこと、主自身も許されないだろうな』

シグナムは自嘲気味に呟く。

『そうね。優しい、方だから……』

シャマルもまた、同じだった。

『だが、やらねば主は……』

『わかってるわ、シグナム』

『……蒐集に行ってから戻る。シャマルは先に戻ってくれ。主を頼む。今夜はヴィータとザフィーラがいるから大丈夫だとは思うが……』

『そうね。心配かけるわけにはいきませんから……気を付けてね、シグナム』

『ああ』

2人の声には、悲しさと哀しさ、そして苦しさが入り交じっていた。

「行くか」

シグナムは、先ほどまでの悲哀を振り払う。やると決めた以上は、後戻りはできない。それは悲痛にも似た誓いであった。

シグナムの足下に、正三角形とそれぞれの頂点に円が描かれた紫色の魔法陣が再度展開される。魔法陣が輝きを見せた瞬間後、シグナムは別の世界へと転移した。

スポンサーサイト



この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://mizuasa01.blog120.fc2.com/tb.php/16-1844f768

0件のトラックバック

0件のコメント

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

カウンター

 

――――――――――――――

最近のトラックバック