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よこりりA’s:その6

その6

「やっと着いた……」

部屋に到着してすぐ、横島は荷物を投げ出すと、大の字になった。疲労が一気に襲いかかり、全身を妙な脱力感が襲ってくる。立ち上がる気力も、ない。このまま疲れに身を任せて眠りに就きたいというのが、横島の偽らざる今の心境であった。

昼過ぎには海鳴に着いていたはずの横島とほたるであるが、結局部屋に着いたのは夕方である。これほどの疲れは、2人??特に横島にとって、予定外の事態であった。

「とっとと部屋に来てればよかったかなぁ……」

横島とほたるは、当初の予定通り、さっさと荷物を部屋に投げ入れるつもりであった。しかし、せっかくだからと少しぶらついていたのが仇となる。

「あら、そんなこと言っちゃダメですよ」

ぼやく横島を、ほたるは笑いながらたしなめる。予定はどうであれ、大規模な除霊と浄化を連続して2回も行うこととなった。しかも最初の除霊と浄化は、人命救助という最優先課題のおまけ付きである。横島達が居なければ少女??アリサ・バニングスは間違いなく死亡していたし、その魂も輪廻の輪へと加わることもなかっただろう。下手をすれば、長い時をしゃぶられていた可能性すらあった。

「わかってる。言ってみただけ……」

横島だってそれぐらいのことはわかっている。ただ、今日2回の出来事は、それでもぼやきたくなるぐらいのものだった。

散歩がてらに大規模な除霊・浄化作業を行ったのは、槙原動物病院周辺と海鳴臨海公園の2箇所である。

槙原動物病院周辺では、無限回廊と化した結界とその結界の主と言うべき悪霊を確認する。しかもその悪霊が少女??アリサ・バニングスを襲っていたために急いで除霊作業を行うこととなった。ほたるに持たせていた文珠でアリサを【護】り、と同時に横島の霊波刀で悪霊を粉砕する。残滓とは言え魔力もどきを取りこんでいた悪霊は、通常の依頼ならば何千万円クラスの獲物であった。しかも、本来ならばただの雑霊を悪霊化させたほどの残滓である。そのため、漂う残滓もろともに、場を一気に浄化した。結果として、元の雇い主??美神令子ならば、間違いなく億単位を追加要求していたであろうほどの仕事となった。

気絶したアリサに困惑した横島は、ひとまず近くの大きな公園‐‐‐‐海鳴臨海公園へと【転】【移】する。気絶した少女を抱えて移動していたら、それこそ何を言われるか、その上“何”に追い掛けられるのかわかったものではないから。

さらに公園では、ほたるが転移すると同時に人除けの結界を張った。いきなり人が現れたら誰もが驚くことは間違いなく、気絶した少女を抱えていたら尚更である。しかも背中に大きなリュックを背負っているとなれば、尚のこと不審者である。

そこまでは良かったのだが、転移先の、より正確には公園に面した海上で、槙原動物病院周辺と同質の魔力もどきの残滓を感知したのである。しかもその残滓の程度が先の残滓よりも遙かに強かったため、万が一を想定して再び浄化を行う。しかも海上であるために浄化作業に若干手間取らざるをえなかった。

どちらも、本当ならばそれぞれが単独の依頼として成立しえるものである。横島が部屋についた途端に倒れ込むのも、宜なるかなと言えよう。

だが、横島の後から部屋に入ったほたるに、そんなことは関係なかったりする。

「マスター……ちゃんと荷物片づけないと、行儀悪いですよ?」

にっこりと笑いながら、ほたるはゆっくりとプレッシャーを横島にかけていく。

「マ、ス、タ、ー?」

しかも、一言一言に力を入れながら。

「……あ、わかった……」

そうほたるに言われれば、横島とてもそうせざるをえない。と言うよりも、こういう時のほたるの背後にはなぜか母の姿が重なって見えるために、せざるを得なかった。もっとも片づけと言っても、自分の荷物を宛がわれた部屋に押し込めるだけであったが。

 

「お茶、飲みます?」

「あんがと。頼む……」

横島はリビングの椅子にもたれかかると、湯飲みを取った。

「ああ、馴染む……」

お茶が疲れた横島の身体を癒していく。

「美神さんの所に居たときは、良くあったんじゃないんですか?」

ほたるの疑問はもっともであった。難易度の高い依頼を、高額でこなしていくことで有名な美神除霊事務所は、難易度の高い依頼を連続してこなしていくことでも有名であった。事務所のスケジュールには、売れっ子芸人よろしく予定がびっしりと詰まっているほどである。そのため、周囲には一日に何度も除霊を行うという印象が持たれている程であった。横島が何度も遅刻早退欠席を繰り返してきたことも、その印象に拍車をかけている。

「言われるほどあったわけじゃない」

横島は首を横に振った。横島も、回りからそのように見られてきたことを知っている。だが、なかなか信じて貰えないあたり、美神所霊事務所の業は深いと言えよう。

「普通、短時間での連続除霊というのはあまりやらないんだ。だいたい、実際の除霊よりも、除霊するまでの準備に時間がかかるしな」

除霊は霊を払って終わりというわけではない。霊障が発生するようになったきっかけや、現在に至るまでの経緯などを知ることも重要である。また、霊障の発生を確認し、その周期や傾向を見極める必要もある。
また祓えば祓ったで、その後のケアも必要となる。そのため、作業自体は数分で終わっても、その他諸々で1日仕事になることも珍しくはない。

「それに、美神さんの所に居た時は、囮と偵察で走り回って疲れることの方が多かったしな……」

当時のことを思い出したのか、横島の声にそこはかとない悲哀が交じってくる。

「今思い返すと、いくら色香に迷っていたとは言え、よくやったよ……何せ、250円だからなぁ……」

脳裏には、事務所前に求人募集の張り紙を出す令子に飛びかかる初めての出会いからの出来事が走馬燈のように駆け回る。そう言えば、死にかけたことも1度や2度ではないなぁ……と、あまりにと言えばあまりにな過去に、横島は改めて落ち込んだ。

「でも、だからこそ今があるわけですから……マスターも、私も」

慰めるようなほたるの言葉に、横島はああとだけ頷く。

2人はしばらく黙り込んでいた。時計の針の音だけが、なぜか大きく響いて聞こえる。窓の向こうでは、昼と夜とが急速に入れ替わっていた。時折見える車のライトが、その変化をさらに強調する。

ほたるは立ち上がり、カーテンを閉めながら呟いた。

「……収穫、ありましたね」

呟きではあるが、独り言ではなかった。

「海鳴には間違いなく魔力もどきが渦巻いてますし、それがあちこちにあるであろうことは間違いありません。原因まではさすがにわかりませんが」

「……遺産でも流れ着いたのかね」

横島がぽつりと呟く。その言葉に、ほたるが身体を軽く震わせた。

遺産。去年、日本を主舞台とし、世界中を震撼させた神話級の大事件??アシュタロス事件。自らを縛る秩序に反抗するため、アシュタロスはさまざまなオカルトアイテムを作り出し、各地に拠点を構えた。
遺産とは、アシュタロスが作り出し、遺したオカルトアイテムおよび拠点の総称である。現在房総半島沖に沈んでいる究極の魔体や、南極大陸の拠点??バベルの塔などはその代表と言える。しかし、究極の魔体やバベルの塔は場所のわかっている例外的な事例であり、ほとんどは不明なケースの方が多い。しかも人界のみならず、魔界にも散っている。場合によっては地球外に、下手をすれば太陽系外にすら散っている可能性がある。拠点も、オカルトアイテムも、全貌は把握されていない。

しかも遺産は人界はもとより、神界・魔界の遙か上を行くオカルト技術の固まりでもある。そのために、遺産の持つ能力もまた計り知れないものであった。自らの望む効果を最大限に発揮させるコスモプロセッサや、新しい宇宙を作り出す宇宙の卵などはその代表と言えよう。そして、それらのオカルトアイテムを制御は非常に難しく、制御に失敗して暴走してしまうことも決して珍しいことではない。

「遺産絡みだとしたら、なおのこと慎重にならないといけませんね」

横島はああと頷く。

遺産の取り扱いは、厳重保管が原則であり、そのような協定も結ばれている。しかし、その技術・能力に惹かれ、危険を承知で遺産を手に入れようとする盗掘者も多い。そのため、盗掘者の取り締まりや遺産の捜索・保管はオカルトGメンやゴーストスイーパーと言ったオカルト関係者の重要な仕事・依頼のひとつとなっている。横島とほたるもまた、オカルトGメンから遺産絡みの依頼を受けることもある。何より、遺産は2人にとって大きな意味を持つオカルトアイテムでもあった。

「でも、あくまでも可能性だ。隊長には言っておいた方がいいだろうけどな」

「そう、ですね」

ほたるの表情は、なお暗い。

 

「……しんみりするのはなしだ。現状の把握、いくぞ」

横島は、海鳴市の地図と美智恵から渡されたリストをテーブルの上に置いた。

「確認できた魔力もどきの場所は取り敢えず2箇所。他に、リストの位置を落としていくと、こんな感じかな。病院と公園がリストにも入っている以上、他の場所も危ないって考えるのが妥当だろうし」

そう言いながら地図の上に次々とポイントを落としていく。

「こうやって落としてみると、案外と広いですね」

「……そうだな」

横島はげんなりしながら頷く。美智恵から受け取ったリストには8箇所ほどしか記載されていなかったが、それでも確認範囲は海鳴市の全域に広がっていた。移動するだけで一苦労である。

「これだって今わかっているだけのものだからなぁ。わからないものを含めたら、いったいどうなるのやら」

横島は18歳になると同時に免許を取ったものの、車は持っていなかった。横島の通う学校は必ずしも進学希望者だけではないため、さすがに3無い運動などというものは行っていない。だが、車を買うと言うこと自体が高価な買い物になるため、在学生で車を持っているような生徒はいなかった。

また、車を借りたところで、動き回れるのははっきりと目的地のわかっているところだけである。しかも土地勘が無い以上、結局は、歩いたり公共機関を使ったりしたほうが身軽に動けたりする。

だが市街を歩き回るとなると‐‐‐‐

「当てもなく、かぁ……?」

身軽に動けるかもしれないが、効率は悪い。そんなやり方に横島は思わず頭を抱えた。

「……ええと、式神を放ちましょう。あの魔力もどきに反応するようにしておけば、労力も避けるかと」

ほたるは式神を何羽か作りだし、窓から放つ。

「何か引っかけてくれるといいけど」

「そうですねぇ。まあ広いですから、あるに越したことはないということで」

「……それしかないか」

2人は明日からの事を考える。

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