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よこりりA’s:その5

その5

「まぁ、こんなものを持っているのなら、確かにそうなんだろうけど……」


アリサは、車中でペンダントを弄びながら思い出していた。

 

「ゴーストスイーパー?」

「そ、ゴーストスイーパー横島忠夫。年齢は18。信じられないのは無理ないけど」

俺も信じられないけどなと横島は笑う。ゴーストスイーパーの資格試験は難関で知られる。どれほど受験者数が多かろうとも、試験に合格できるのは最大32人という非常に狭き門である。そのため、毎回試験に挑戦している司法浪人生みたいな受験生もいるぐらいであった。

ゴーストスイーパー試験は、一次試験と二次試験から構成される。一次試験では、霊力測定による足切りが行われ、ここで128人にまで絞り込まれる。受験者数がどれほど多かろうとも、例えば何万人の受験生が居ようとも、128人という枠でしかない。二次試験では、一次試験合格者128人による霊的試合である。基本的に2回戦を勝ち抜けば資格は得られるが、試合自体は首席が決まるまで続行される。そして、特に理由もなく試合を棄権すると、例え2回戦を突破していたとしても、資格は剥奪されてしまう。また、試験により、大けがをしてしまって資格を返上せざるを得ない事態や、死亡することもある。もちろん、不正行為を働いた場合もそうである。最大32人というのはそのためであり、近年では横島が資格を取得した年がそうであった。その厳しさのため、“GS試験”と言えば司法試験以上の最難関の代名詞として、危険の代名詞としても使われる程である。

「これで信用できるかな?」

信じられないという表情を見せるアリサに、横島は自分のGS免許を渡した。アリサはGS免許を受け取ると、記載事項をまじまじと見つめる。写真の人物と目の前の人物は、確かに同一人物であった。生年月日を確認し、今年の日付を思い浮かべ、引き算をする。

「本当に18歳なんですね」

アリサはGS免許を横島に返した。

年齢は、確かに親友の兄と姉と同じぐらいであった。

「まぁ、確かに18で免許持ちってのは珍しいからね。あの六女にだってそう居るわけじゃないし」

「じゃあ、そちらの方もゴーストスイーパーなんですか?」

アリサは、横島と名乗った少年の隣に立つ少女に目を遣った。

「私はゴーストスイーパーではないわ。どちらかと言えば、助手みたいなものです」

ほたると呼んでくださいと言いながら、少女はアリサの考えをやんわりと否定する。助手が何をするのかよくわからないが、本人がそう言うのならそうなのだろうと、アリサは取り敢えず納得することにした。

「で、早速本題に入るけれども」

横島が口火を切る。

「アリサちゃん、よくあそこに居られたね」

「え?」

だがアリサにはその意味するところがわからない。

「居ちゃいけない場所だったんですか?」

「いや、そうじゃない」

アリサの困惑する表情を見た横島は、言葉を付け足す。

「アリサちゃんが居たあの場所、ちょっとした結界になっていてね。同じ所をぐるぐる回る無限回廊になっていたんだよ」

アリサはあの場所に居た時のことを思い出す。言われたように、確かに同じ場所を何回も何回も通り過ぎていた。

「しかもぐるぐる回りだけじゃなくて、位相もずらされていてね」

「位相?」

オカルトらしからぬ言葉にアリサは首を傾げる。

「そうだな……あそこに違う世界が重ねられていたと思ってくれればいい。重ね絵みたいな感じだな。あるいは、アニメのセル画かな」

わかるようでわからないような説明だが、アリサはひとまずそれで納得する。

「問題はここなんだ。あの結界、どうやら一定以上の霊力を持っていると入り込んでしまうらしいんだな。実際、皆あの結界に取りこまれることなく普通に歩いてた人も多いから」

アリサは横島の言わんとしていることに気づく。

「ということは、私は霊力を持ってるということですか?」

それこそまさか、であった。

「あたし、これまで幽霊なんて見たことないんですけど……」

アリサの声が少し上ずる。

「そうは言ってもアリサちゃんがあそこにいたのは事実だからね……霊力を持っているとしか言いようがないんだ。実際、アリサちゃんから霊力を感じるし」

横島の言葉はまさに追い打ちであり、アリサの顔が少し引きつる。横島は何かを思い出すかのように天を仰いだ。

「となると……触発、か」

「触発?」

少し引きつらせたまま、アリサは首を傾げる。

「霊能力の高い人の側に居続けることで、自らもその能力を開眼させちゃことって、案外と多いんだ。それを触発とか誘発、誘導とかっていうんだけど……アリサちゃんはそう言う人に心当たりない?」

そう言われてアリサは身近な顔ぶれを思い出す。なのは・すずかともにそういう気配はないだろう、たぶん。

鮫島も……多分ないだろう。鮫島のことだ、あれば最初から何らかの手を打っているはず。両親も同じ理由で除外。

傾げ続けるアリサを見て、横島は言葉を続ける。

「何にせよ、アリサちゃんはあの結界の中に入れる程度には霊力を持っちゃったわけ」

「と言うことは……これからもあんな事に巻き込まれるって事ですか?」

アリサは事態の重さを察し、青ざめる。

「ああいうのがよくあるのかは何とも言えないけど、あれば間違いなく巻き込まれる。しかもあれも結構なオカルト現象だから、アリサちゃんの霊力をさらに刺激した可能性が高いし。……確実に“視える”ようになるなぁ」

「“視える”って……」

横島の微妙な発音にアリサは違和感を覚えるが、すぐにその意味を感じ取る。アリサの表情はさらに青ざめていった。

「幽霊とか見えちゃうんですか!?」

「……間違いなく」

「だって、え、幽霊って、そんな、だって、なぜ、どうして?」

アリサは半狂乱となっていた。今までオカルトとは無縁だった少女が、今日からいきなり霊力に目覚めたと言われれば、無理もないことである。

「だって、見ちゃったでしょう?」

横島の問いかけに、アリサはあの暗いものを思い出した。

「……あれって、まさか……」

「その、まさかだ」

横島もまた、暗いものを思い出す。暗いものの正体は、元は無害な雑霊に、あの辺り一帯の変な魔力もどきが作用して悪霊化したものであった。そして依頼内容から考えて、あの魔力もどきが海鳴市内に何カ所かある可能性がある。急いで魔力もどきの位置を特定し、その場を浄化する必要があった。そうしなければ、またあのような変な事態が発生しかねない。もっとも、横島はそのことまでをもアリサに伝える気はない。

「まあ、あれ自体は何とかなったけど、これから先もどうなるというものでもない。それにこちらから“視える”と言うことはあちらからも“視える”と言うこと。見えなければ何ら問題はないんだが、見えちゃう以上はあっちからちょっかいがかかる」

あまりにと言えばあまりにな内容に、アリサは再び涙目になる。

「が、手がないわけではない」

「そうなんですか?」

一縷の望みをかけて、アリサは横島の言葉を待つ。

「自分の霊力を制御する。“視る”スイッチを自分で切り替えることができるぐらいで十分。何だかんだでそれしか手はないし、時間もかかっちゃうけど」

霊能力があるからと言って誰もがゴーストスイーパーになるわけではない。そもそも、普通に生活する分には、霊能力はない方が良いぐらいである。だが、望むと望まざるとに関わらず目覚めてしまった以上、霊能力とずっと突き合っていかなくてはならない。だがそのためには、余計な時間と労力が必要となる。
ゴーストスイーパーになるのでなければ、尚更であった。「……それしか、ないんですか?」

「それしかないなぁ」

はぁとアリサは深い溜め息を付く。

「……アフターケアもGSの仕事だから、何とかするけど」

「何とかと言われても、どうするっていうのよ……」

あまりの衝撃にアリサの口調が普段に戻りつつあった。

「ほたる、頼む」

「わかっています」

そう言いながらほたるは横島に手渡したのは、滴状の綺麗な石の付いたペンダントだった。

「とりあえず、これを持ってて」

そう言いながら手渡されたペンダントを見て、アリサは絶句する。

「こ、これって精霊石じゃないっ!」

精霊石。大西洋に浮かぶ小国であるザンス王国が主要産地であり、精霊の力を宿す神秘の宝石である。その宝石は非常に高価で、億単位で取引されていることをアリサは知っていた。そんな高価なものをあっさりと手渡された衝撃で、アリサの口調は完全に戻る。

「そう、精霊石。これならば、当面はどうにかなる。霊能力を完全に制御しきるには時間がかかるけど、それまでの保険には充分だしな」

そこまで言って横島ははたと首を傾げた。

「って、これが精霊石だって、よくわかったね」

精霊石は名前だけが有名なオカルトアイテムである。精霊石は、たとえ削り滓と言えどもアクセサリーに使えるほどにお手軽な宝石ではない。そもそも、一般市場に出回る事自体が稀である。
そのため、名前は知っていても実物を見たことのない人の方が多い。とは言え、なぜ知っているかなどと言うことは、横島にはどうでもいいことであった。

「ま、知っているのなら話は早い。取り敢えずは、“視えない”ようにはなると思うし」

「え、でも、こんな高価なものを……」

「いいっていいって。俺が持っていてもあまり意味ないしな」

そう言って横島はかんらと笑う。

「使うべき時に使うのが、一番だし」

「はぁ、では、しばらくお借りします……」

何で意味のないものを持っているのか疑問ではあるが、さすがにそこまでは聞けなかった。

かくして、精霊石のペンダントはアリサの胸元を飾ることとなったのである。

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