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よこりりA’s:その4

その4

アリサの頬を潮風がなでる。その潮風につられるように、アリサは次第に覚醒していく。

「あ……」

覚醒し始めると同時に、先ほどの不思議で怖い体験を思い出した。

どこまで行っても同じ所をぐるぐる回る変な道に迷い込んだこと。回りよりもさらに暗い変なものに追いかけられたこと。それに襲われたこと。そして、自分を守ってくれた光の壁と、優しい笑みの少女。

少しずつ瞼が開き、瞳は周辺の様子をぼんやりと映し出す。しかし、瞳はただ映し出しているだけで、アリサはその意味するところまでをもまだ理解しているわけではない。

少しずつ焦点が合いだした瞳が映し出していたのは、青一色の風景だった。ところどころに白い何か浮かんでいるのも見える。

「あ、れ……?」

アリサの瞳が映し出しているのは、間違いなく空の景色。

‐‐‐‐なんでこんなところに居るんだろう。

‐‐‐‐あそこは確か、暗かったはず。

覚醒したとはいえ、アリサの意識はまだはっきりしていない。

「気が付いた?」

そんなアリサに声がかけられる。その声は、黒い影に襲われる寸前、光りの壁に護られ、そして誰かに抱きしめられた時に聞いた声だった。

全てのことに疑問符を浮かべながら、声のした方へと顔を向けた。そして視線の先に、あの時の少女を見る。

「!!」

自分の目の前には、あの銀髪が特徴的な少女。と同時に、後頭部に柔らかな感触も感じる。

‐‐‐‐膝枕!?

そのことがきっかけとなり、アリサは完全に覚醒した。

「え、え、え……」

青一色の風景だったのは、アリサが寝かされていたからだった。アリサは慌てて飛び起きる。そんなアリサを、少女はくすくす笑いながら優しく見つめていた。

「ここは……?」

「海鳴臨海公園って書いてあったわ。気絶してしまいましたし、ゆっくりと休める場所が欲しかったものですから」

少女にそう言われてアリサは赤面する。そんなアリサに声がかけられた。

「お、気づいたようだな」

声はアリサの後ろから聞こえた。アリサは慌てて振り返り、声の主を確認する。そこにいたのは、青年と言うにはまだ若干年若い、赤いバンダナを巻いた黒髪の少年だった。

「なんとかぎりぎりで間に合って良かったよ。怪我はないかい?」

「はい、何とか……ちょっと疲れてるぐらい、です……」

実際、アリサは体力を激しく消耗していた。長距離マラソンを走り続けたような、50m走を何回も行ったような疲労感を感じている。

「なるほど、まあアレに当てられればそうなるな……」

少年は腕を組んでうんうんと頷いていた。

「肉体的にはもちろんだけど、精神的にもかなり疲れているはずだからな。今夜は早めに寝た方がいいぞ」

少年の言葉にアリサは頷く。

「それと、はい」

少年から差し出されたのは、濡れたハンドタオルだった。

「さっきまで涙いっぱいだったからな」

アリサはあのときの怖さと醜態を思い出し、さらに顔を赤らめる。

「仕方ないわ。貴女の反応が普通なのだから」

少女がアリサをフォローする。

「そう、ですか?」

アリサは実業家の両親を持ついわゆる上流階級とされる少女である。そのため、礼儀作法やマナーは物心が付く頃から嫌という程躾けられてきた。だからであろうか、どのような時でも乱れることなく、自分を見失うことなく、がアリサのモットーになっている。そのため、オカルト現象のような異常事態であろうとも、自分を見失ってしまったことは、アリサにとって望ましいものではなかった。

アリサはひとまず差し出されたハンドタオルで顔を拭く。モットーがどうであれたくさん泣いてしまったのは事実であるし、そのために顔に引きつるような感覚を覚えている。さっきまで気を失って横に寝かされていたため、着衣も若干乱れていた。制服の乱れも直さなければならない。

そして改めて2人の前に立つと、深くお辞儀をする。

「アリサ・バニングスと言います。危ないところを助けて頂き、ありがとうございます」

そんなアリサを、少年は笑いながら見つめる。

「良いって良いって。あれは俺らの仕事みたいなものだし、それに何より」

少年は立ち上がり、アリサの頭をぽんぽんと叩く。

「アリサちゃんみたいな将来性間違いなしの美少女を助けるのは、義務みたいなものだ。美人のお姉さんがいたら、紹介してくれるとお兄さんは嬉しいけどなっ!」

「……マスター?」

大口をあけて笑っている少年を、少女はジト目で見つめる。

「姉は、居ませんけど……」

そんな2人を見ながら、アリサは何やら微妙なものがこみ上げてくるのを感じた。確かにアリサは、幼いながらも美少女と言われることも多く、そう言う点では将来性が高いのは間違いない。だが、自分の容姿がために助けたかのような少年の物言いに加え、美人の姉云々というのは、さすがにどうだろうと思う。何より、アリサちゃんと言う呼び方に何か引っかかるものを感じる。

そんなアリサの微妙な表情の変化を見取ったのあろう、少女が苦笑する。

「気にしないで下さいな。マスターは誰彼構わずこういう事を言いますから」

「誰彼構わず、って……」

それはそれでなんだか悔しいと、アリサの表情がさらに微妙なものへと変わる。でも、ここで命の恩人にあれこれ言ったところで仕方がないこともわかっている。大きく深呼吸して気持ちを落ち着けると、アリサは再び2人に向き直った。

「なんだかいろいろと引っかかるものはありますけど……それでも助けて頂いたことは事実ですし、改めて礼を致します」

相手が知人だったら、あるいは単に無礼なだけの人物ならば、アリサは遠慮なく怒鳴り、真意を問い詰めたかもしれない。しかし、動機が額面通りでせよそうでないにせよ、この2人が居たからこそ自分が助かったことを、アリサは十分に理解していた。だから胸の内にこみ上げてくる微妙な感情を抑えつつ、アリサは再度礼を述べる。そして、尋ねたかったことを聞く。

「それでお聞きしたいのですが……さっきのアレはやはりオカルト……なんでしょうか?」

アリサが一番聞きたかったこと、それは先ほど経験した不思議で怖い現象の正体だった。

「うーん、知らなければ知らない方がいいんだけど……」

途端に少年の口が重くなる。

「でもまあ、この先のこともあるからな。知っておいた方が良いか」

そうですねと少女も同意した。

数十分後。アリサは車中の人であった。

アレだけの体験をしたために心身共に疲れていたこと、一人になってまたあのような事態に巻き込まれる可能性があることを避けるため、2人がアリサに保護者を呼ぶように言ったためである。2人とは公園で別れた。

アリサ付きの執事である鮫島とあの少女が挨拶を交わしている中、少年は何かを叫びながら頭を木に何度も打ち付けているのはなかなかのシュールだったと、アリサは思う。
もっともそれ以上シュールだったのが、そのシーンを平気で流している鮫島と少女であったが。

「あの人たち、本当にゴーストスイーパーなのかしら」

アリサは思わずぼそっと呟く。

世間一般のゴーストスイーパーのイメージは、マンガで言うところの退魔師のようなものだった。なにがしかの法則に則って奇跡的な力を振るい、この世に仇を為すものを討つ者。それらしい法衣などを身につけ、これまたそれらしい道具を持っている、と言った案配である。

アリサもまたそのイメージを持っていた。しかしアリサを助けたゴーストスイーパーは、見た目からして一般的なゴーストスイーパーのイメージから外れている。

「お調べしましょうか?」

アリサの呟きを聞いたのだろう、鮫島が口を開く。

「名刺もあることですし、調べるのは簡単です」

「……そうね。一応調べて貰おうかしら」

すでに老齢と言って良い鮫島は、バニングス家に3代に渡って使えている執事である。バニングス家を護るのが仕事であるとも言って良い。そうである以上、調べなくて良いと言ったところで、鮫島は独断で調べるだろう。

アリサはそう確信している。ならば、それを否定する必要はないというのが、アリサの考えであった。それに、今回の出来事を両親に話し、2人に改めてきちんとした謝礼をする必要もある。

「どういう人か知りたいし」

アリサは胸元のペンダントを弄びながら呟く。そのペンダントは、2人から手渡されたものだった。

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