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よこりりA’s:その3

その3

横島とほたるが海鳴駅についたのは昼過ぎであった。海鳴駅がターミナル駅であったこと、さらにその日が土曜日であったこともあり、駅前は大勢の人でにぎわっていた。だからであろうか。

「マスター」

「何だ?」

「……視線がすごく痛いんですけど」

どこか疲れたようなほたるの声に、横島はどこかやけくそのような笑いを見せている。

「大丈夫、気にするな。気にしたら負けだ、たぶん」

2人を奇異の目で見る者が、多かった。 横島忠夫とその使い魔たるほたる。方や平均的に日本人男子。特に特徴もなく、強いて言えば平凡。 方や銀髪が目を引くいわゆる美少女。十人中十人は釘付けにされるであろう容貌。はっきり言ってしまえば、アンバランスなのだ。故に人々の視線はまずほたるに向かい、そして横島へと向かう。

だが、そこで彼等は気づくのだ。2人が背負っている大きなリュックサックと、片手に引いているこれまた大きめのキャリー式の旅行鞄に。特にリュックサックは大きく、幅だけで成人男子3人分はあろうかというものである。そのために、視線がなにやら微妙なものへと変化する。それが2人の感じる痛さの正体であった。

「間違いなく、このリュックに目が行ってますよ」

「いろいろ詰めてきたからな」

「マスターのスタイルからすれば、本来は必要ないものばかりなんでしょうけど……」

「長期滞在になる可能性があるからな、一応念のためだ」

「それでもやりすぎのような気がするんですけどねぇ……」

ほたるは無言となった横島を横目に見る。ほたるは周囲の視線の痛さをひしひしと感じているものの、横島はその痛さを感じていないように見える。

「美神さんのところにいた頃はいつもこんな感じだったからな。まぁ、慣れだ、慣れ」

お前もじきに慣れると言わんばかりに、横島は笑う。

実際、霊能力のない助手時代の横島は、基本的に囮と荷物運びであった。囮と荷物運びの両方を同時に行ったことも珍しいことではない。霊能力に目覚めた後も、やはり囮と荷物運びは横島の役目であった。そして持ち運ぶ荷物は、常にこんなものだった。それだけの荷物を抱えて町中を移動することだって珍しくない。つまりは、横島はずっと奇異の視線を浴び続けてきたのであった。

そのことを知っているほたるは、決して慣れたいものではない思う。

‐‐‐‐いつかは慣れてしまうんでしょうね……

ほたるは心の中で嘆息していた。

「マスターって、もしかしなくてもマゾ?」

そう思いたくなる節は、いくらでもあった。

「なんか言ったか?」

「……いえ、何も」

ほたるは思わず呟くが、横島には聞き取られなかったらしい。だから、話を誤魔化すことにした。

「早く部屋に行きましょう」

横島は何か釈然としないものを感じるものの追求はしない。ただ、

??何かろくでもないことを言われたような気がする。

そう思うのみであった。

 

そんなこんなで歩き始めて十数分後、横島の足が止まった。それに合わせるように、ほたるの足も止まる。そして、2人の顔つきが厳しいものへと変化した。

「結界、だな」

「結界、ですね」

2人の目の前には、それまでと何ら変わらない景色が広がっている。だが、生命の活動が一切感じられない世界へと変化を見せていた。正確には、生命の活動が一切感じられない世界が、重なっていた。実際、2人を追い越して歩いていく人や、こちらに向かってくる人も多いのだ。ただ2人には、その他の通行人の姿が若干ぶれて見えていた。

「位相がずらされているようですね。一定以上の霊力持ちなら、こっち側に入り込んでしまうようです」

ほたるが結界の見極めに入る。

「結界の基点は?」

「おそらくは、あそこです」

ほたるが指さした先、そこには『槙原動物病院』と書かれた看板があった。

横島とほたるは、結界の中へと足を進める。瞬間、2人はざわりと身体中を虫が這うような不快感を感じた。だが、一瞬後にはそれも収まる。

「魔力……でもちょっと違うな。マリアにも来て貰った方がよかったか?」

うなじの辺りをさすりながら横島は顔を顰める。海鳴市で観測されたという変な魔力反応のことを思い出したためであり、それと今回感じた違和感のせいでもあった。魔力と言われれば確かに魔力と答えるしかないが、かといって魔力とは言い難い違和感を感じる力。その2つが横島の中で関連づけられる。

この2つが同じものであると、横島は断言することができない。東京に居ながら海鳴市での魔力を感知したマリアならばその違和感を正確に測定することができただろうし、その保護者たるドクターカオスならばその意味するところを分析することができたであろう。だが横島に両者を比べる術はない。

「空気が重いですね」

ほたるも顔を顰める。ほたるが感じたのは不快感であった。結界内は、梅雨のように湿度の高い空気が充満されている。梅雨のそれと違うのはその湿度が具体的な湿気として存在していないこと、そして身体中に空気がまとわりつくだけであって決して蒸しているわけではない、ということである。とは言え、この空気が不快感を感じさせることに変わりはなかった。

違和感と不快感に取り憑かれながら、それでも2人は歩くことを止めない。

結界内に入った2人の目的はひとつ、結界の解除である。本来の仕事と関係のない作業になるが、霊力を持つだけの一般人を巻き込むとなれば、そうは言ってられなかった。何より、オカルト現象に遭遇したときにそれに対処することは、ゴーストスイーパーの責務でもある。

2人は槙原動物病院の前で足を止めた。魔力に似た何かを一番強く感じたためである。

「槙原動物病院……確か、謎のガス爆発事故があった、ということになっている病院ですね」

「リストによればそうなっているな」

横島はリュックサックを下ろし、キャリー式の旅行鞄と共に脇に寄せる。

「謎のガス爆発とはよく言ったものだな。それに、確かに結界の基点だ」

結界外では横島にはわからなかったが、今ここに立つとはっきりとわかる。魔力に似た何かを一番強く感じる場所であった。

「で、どうします?」

ほたるの問いかけに、横島は考えを進める。

「普通のとはちと違う魔力だ。【解】【除】するのは簡単だが、それでは問題解決にならんしなぁ……」

実際、横島が結界を【解】【除】するのは、非常に簡単である。横島は自身の持つオカルトアイテム、より正確には霊能より、結界を【解】【除】することができる。それを可能にさせているのが神器とも言われる指向性型オカルトアイテム??文珠??であり、その精製こそが横島最大の霊能であった。

見た目は単なる翠色のビー玉である文珠は、その中に漢字一文字を込めることでさまざまな効果を発揮する。通常文珠一個につき漢字一文字であるが、それを複数個制御することで、より大きな効果を発揮させることもできる。神々の領域とも言える時間の逆行すら可能である。そのため、文珠は横島最大の切り札であった。

「とは言え、【解】【除】せずに済むのならば、それに越したことはありませんから」

「そうだな」

ほたるの言葉に、横島は頷く。問答無用の反則アイテムとも言われる文珠は、しかし使用に制限の多いことはあまり知られていない。まず個数が多くなるにつれて制御は加速度的に難しくなる。また、言われるほどに、どんなこともできるというわけではない。しかも、1日にそう何個も精製できるものではなかった。そのため、横島は文珠の使用を基本的に制限している。

「……まあ、この結界を地道に調べるしかないか」

「そうですね。依頼に繋がる可能性もありますから」

この場で感じた魔力もどきが依頼に繋がる可能性が出てきた以上、簡単に【解】【除】することは得策ではないと2人は判断する。【解】【除】してしまうと、魔力もどきも一緒に浄化されてしまう可能性があるためであった。

「それに、迷い込んだ人がいたら、保護しないと。……生きてりゃいいんだけどな」

「そう、ですね……」

諦めにも似た横島の呟きに、ほたるが応える。

この結界がいつ頃から張られているのかさすがに2人もわからない。仮に春頃の事件に関係しているとすれば、すでに8ヶ月近く結界が張られ続けていた可能性がある。
その間に迷い込んだ人がいた場合、衰弱その他で命を落としている可能性が高い。場合によっては、結界を張った“何か”に喰われた可能性すらある。

そして数分後。2人の懸念は的中する。

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