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よこりりA’s:その2

その2

‐‐‐‐何で、一体こんな事になったのだろう。

アリサ・バニングスは何とはなしに空を見る。

‐‐‐‐どうしてここにいるんだろう。

歩き疲れたアリサは、縁石に腰を下ろしていた。わかっているのは、今閉じ込められていることだけ。

今日は土曜日で、学校は午前中で終わりで、いつものようになのはとすずかと一緒に帰ろうと思ったけど、なのはとすずかは急用が入ってしまって。で、久しぶりの一人下校だから寄り道をしようと思った。でも、なぜこのような事になったのか、アリサにはまったく想像が付かない。たまたま一人になったのがいけなかったのか、寄り道をしようと思ったことがいけなかったのか。あるいはその全部か。それとも、全くの偶然か。

「ああ、もう、一体どうなってるのよ……」

アリサはいつまで経ってもたどり着かない目的地に、文句を言う。

歩いている時間、向かっている方向、何より道や風景を見る限り、目的地に向かっているのは間違いなかった。しかし、本当なら、とうの昔に辿り着いてもいいほどの時間を歩いているのに、回りの風景はまだ道途中のものであった。だが、道角を曲がった瞬間に、なぜかアリサはずっと前に通り過ぎたはずの道へと出る。こんな事をもう何回も繰り返していた。

最初は、特には気にしていなかった。だがそんなことが何度も続けば、どうやら変なことに巻き込まれたことらしいことは、気づく。この不思議な出来事がオカルト絡みであろうことも。
歩けど歩けど同じ所をぐるぐる回るなんて事は、オカルトでもない限り普通ではあり得ない。何より、そういうような体験をした人もそれなりにいたことを、アリサは知っていた。

しかし、そのことに気づこうとも、一般人たるアリサはそれを打開する術を持たない。

「もう、素直に帰ればよかったのかしら……」

後悔はするものの、したところにどうしようもないことを、アリサは既に悟っている。学費も学力もそれなりに要求される私立聖祥大学付属小学校に、伊達に通っているわけではない。
そして、全教科満点を取るほどに回転が早い。

だからこそ。

「早く帰りたいよ……」

弱気にもなる。勝ち気で、大人びているとは言え、アリサはまだ小学校3年生でしかなかった。

科学技術が劇的な進展を見せ、世界がどれだけ狭くなろうとも、オカルト現象は必ずどこかで起きている。テレビを付ければなにがしかの除霊騒動が報道され、新聞を開けばやはりなにがしかの除霊騒動が報道される。

しかも去年の秋頃には、日本を始めとする世界各地で悪霊・妖怪・魔族の復活騒ぎがあった。その原因となったのは、一柱の魔王。その魔王が人界に侵攻し、その足がかりとして日本を標的にした。そのときに、世界中に悪霊・妖怪・魔族を溢れさせたのである。詳しいことは公開されていないものの、日本のゴーストスイーパーがそれらに対処してきたことだけはよく知られている。

だが、去年のようなことは、それこそ神話級の出来事である。通常、オカルト現象に遭遇することは、滅多にあることではない。一般人がオカルト現象に遭遇するとすれば、それは不動産取引絡みであろう。実際、ゴーストスイーパーと言う職業が大きく知られるようになったのは、土地が巨額で取引されていたあのバブル経済期であった。

それでも、不動産取引などというものに関わる事自体が、稀である。普通ならば、一生に一度あるかないかと言った程度でしかない。つまり、オカルト現象も、その対策者であるゴーストスイーパーも、基本的に無縁な存在でしかない、はずであった。

とは言うものの、オカルト現象は問答無用に、半ば無差別に降りかかる。しかも、オカルト現象に遭遇する確率は非常に低いとは言え、実際に遭遇した方に言わせれば意味のない確率論であった。結局の所、遭遇するかしないかのの二者択一。どれほど確率が低かろうとも、遭遇してしまえばそれまで。それが、今のアリサの現状である。

ふと気が付くと、回りが少し暗くなっていることにアリサは気づく。アリサは慌てて腕時計をみるが、時計の針はまだ1時を過ぎた頃であった。夕暮れ時のような暗さと時計とのズレに気づいたアリサは、そこはかと知れない恐怖を感じる。そしてアリサは見た。道路中央にある、回りよりももっと暗いものを。アリサの目がだんだんと大きく見開かれていき、口が半開きとなり、呼吸がだんだんと浅くなる。
吐くよりも、呼吸の方が深くなっていくのわかる。わかるけども、止められない。だから。

「な、何よ、あれ……」

呆然と呟けただけでも、御の字であろう。それだけで、ただそれだけだけども、アリサは呼吸を回復した。

しかし、次の瞬間には頭の中で警報が鳴り響く。せっかく回復した呼吸も、あっさりと乱れ始める。生きている者だからこそ感じる、本能レベルでの恐怖がアリサを心身共に縛り始める。アリサは理解する。アレは、この世に在ってはならない者。人に、否、生在る者に災いを為す者。アレに触れたら、自分は間違いなくこの世から居なくなる。だから、アリサは走った。とにかく走った。体育の授業もかくやという程に。逃げる場所なんて知らない。走っても走っても、結局は同じ所をぐるぐる回るだけだろう。だけど、それでも走らないと、逃げないといけない。

だから走った、つもりだったのだ。

実際は、アリサが思っている程に走れていない。いつも並どころか、いつも以下ですらあった。恐怖は人の動きを縛る。いつもならば意識せずともできることも、こう言うときだけはなぜか意識をしてしまう。結果として、脚を絡ませて何度も転んでしまう。だから、アリサはなおのこと焦る。

アリサがどれほど走ろうとも、黒いものはつかず離れずの距離を取りながらアリサの後を着いてくる。アリサが転べば、黒いものもまた動きを止める。それはあたかも、強い者が弱い者をいたぶり、嬲るかのような動きであった。そのことがさらにアリサの恐怖心を増加させる。

「なんなの、なんなのよ……」

アリサはすでに半泣きになっていた。

再び脚が絡まり転倒する。もう何度転倒したことか、アリサは数えていない。そして、いつもならば黒いものもそこにとどまっているはずだった。

が。

「近づいて、いる……?」

今度はそこにとどまっていなかった。いたぶることに、嬲ることにあきたのだろうか、黒いものは少しずつ、本当に少しずつではあるが、アリサに近づく。

アリサは動けない。いや、動いてはいるのだが、その動きは非常に遅い。尻餅を着いたまま、後ろに下がっているのだから、当然であった。

アリサは助けを求めようとする。だが、道に迷っているときも、走っているときも、アリサは誰とも会わなかった。だから、いかに声を出そうとも無駄であることに気づいている。

だけども、一縷の望みをかけて、声を出そうとする。だが、声は出ない。かすれた声しか出ない。

黒いものがアリサに追いつく。目の前に現れた黒いものを見て、アリサは絶望する。もう助からない。祈っても無駄。

でも‐‐‐‐

「お父さん、お母さん、なのは、すずか……お願い、助けて……」

それでもアリサは祈らずにはいられなかった。両親を、そして親友の名を呼ぶ。涙は溢れ出て止まらず、目の前の光景はもはやにじむようにしか見えない。

その間も、黒いものは、その黒さをさらに深いものにしながらアリサに迫ってくる。黒いものがアリサに触れようとした瞬間、アリサは翡翠色に輝く光の壁に包まれた。

そして‐‐‐‐

「もう大丈夫ですよ……よく、がんばりましたね」

‐‐‐‐安心を誘う優しい声を聞いた。その声は、張りつめたアリサの緊張をゆっくりとほぐし、断ち切っていく。そして、何か暖かいものに抱きしめられていることにも気づく。それもまた、アリサの緊張をほぐし、断ち切る。

「あ……」

アリサを抱きしめていたのは、10代半ばぐらいの、銀色の髪をした優しい笑みの少女であった。

「アレは、マスターが相手をしますから」

少女の視線の先は、翡翠色に輝く光の壁の向側に向いていた。つられるようにそこに目を遣ったアリサは、背中に大きなリュックサックを背負った男性が立っているのを見る。

「ます、たー?」

ますたーって、何だっけ。そう思いながら、アリサは意識を手放した。 

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