fc2ブログ

Entries

よこりりA’s:その1

その1

横島とほたるが壮大な砲撃戦を目撃する日を遡ること事数日前。横島は美神美智恵によってオカルトGメンのオフィスに呼び出されていた。

そんな横島を出迎えたのは、西条輝彦であった。オカルトGメンの現場指揮一切を担当し、戦闘はもちろんのこと指揮能力に優れ、次期オカルトGメン局長との誉れ高いいわゆるエリートである。そして、魂のレベルから横島と折り合いが悪く、しかし両者の言動は端から見れば仲の良いから故の口喧嘩と言えるものであった。

「どうした横島クン。ついに自首を決めたのかい?」

だからこそ、西条はこのように揶揄する。もっとも横島もそう簡単にやられるわけではない。

「うるせぇ西条。俺は自首するようなことなんぞしとらん。むしろお前の方だろう?」

「僕は何一つ、身に疾しいことはしていないのだがね」

「……先週お前と一緒に歩いていた女性、先々週の人と違うよな」

その言葉にオフィスにいた職員の目が西郷に集中する。

「な、なんの事かな、横島クン」

「……声が動揺してるぞ、西条」

乾いた笑いを見せる西条を、横島は白い目で見つめる。

「今日は隊長に呼ばれてきたんだ。お前の相手をしている暇はねぇ」

「せ、先生かい? 先生なら部屋にいらっしゃるよ」

横島の言葉にこれ幸いと西条は美智恵の在室を告げた。

「ありがとよ」

横島は西条との不毛な会話を早々に切り上げると、美智恵の執務室へと向かった。そして部屋の前に立ち、扉を2?3回ノックする。美智恵の返事を確認した後、横島は部屋に入った。

「横島クン、そこに座って貰える?」

美智恵に言われるまま、横島は応接セットに腰を下ろした。

「ほたるさんも来てる?」

「居ますよ。ほたるは俺の使い魔みたいなものですから」

横島の言葉と共にほたるが現れ、美智恵に軽く会釈をした。

「ならちょうどいいわ。ほたるさんにも聞いて貰いたいし」

「私も、ですか?」

美智恵の言葉にほたるの目が丸くなる。

「今日横島クン達に来て貰ったのはね、仕事を頼みたいからよ」

「仕事って……オカGのですか?」

オカルトGメンの捜査人員は少なすぎるため、民間ゴーストスイーパーの手を借りることも多い。横島もまた、オカルトGメンの捜査に協力することは、さほど珍しいことではない。だが返ってきた言葉は、横島の予想を裏切るものであった。

「オカGと言うよりは、私の用事、って感じかな? 今から言う場所に行って、ちょっと調べてきて貰いたいのよ」

美智恵の言葉に横島は首を傾げる。

「東京から電車で2時間ぐらいのところかな、海鳴市って所があるのよ」

「海鳴市、ですか」

「ええ。そこでちょっと前に、妙な事件というか出来事が起きてるのよ」

美智恵は横島に一通の書類を手渡す。それは、海鳴市で発生した原因不明事件の一覧表だった。

「今年の春ごろ??半年ぐらい前かな、原因不明の爆発事故が起きたり、町中で巨大な木が突然発生して消えたり、通信が広域的瞬間的に何度も途絶したり、いろいろ変なことが起きてね。取り敢えずは交通事故だとかガス爆発とか、集団幻覚とかそういう結論に落ち着いたんだけどね。それはそれで腑に落ちないんだけど」

「はぁ……」

腑に落ちないと言われても、と横島はひとりごちる。

「でも美智恵さんが気にかけてるということは、真相は別にあると言うことですか?」

ほたるが美智恵に尋ねる。

「そうなの。最近なんだけど、これらの出来事があった頃かな、変な魔力の波動が感知されたようなのよ。特に通信が瞬間的に途絶したときに顕著だったみたい」

「変な、とか、みたい、ってずいぶんといい加減ですね」

美智恵はアシュタロス事件の際に全権を率いてこれに対処し、かつオカルトGメンでも実質的な総責任者として任に当たっている。情報の収集・分析能力と対応能力は、個人レベルでは間違いなく人界随一と言って良い。そんな美智恵らしからぬ物言いに、横島は疑問を覚える。

「随分曖昧だなっていうのは、私もそう思うんだけどね」

美智恵は、横島の率直な物言いに苦笑する。

「これを感知したのはマリアよ」

「マリアが?」

横島が驚く。

マリア。齢1千余歳の天才錬金術師ドクターカオスが生み出したアンドロイド。そして、全盛期のカオスが全力を挙げて作り出した最高傑作。そのマリアならば、確かにそう言った魔力の変動も感知するかもしれないと横島は思う。

「しかしよく感知できたな……でもまあ、これがカオスのじーさんだったら眉唾ものですけど」

美智恵もそう思っているだけに、苦笑するしかない。

「マリアならば確かに可能性はあるかも」

「去年の事件をきっかけに、ドクターはマリアの感知能力を大幅に上げたみたいでね。性能試験を繰り返しているときに感知したみたい。でもまあ、さっきも言ったようにあくまでも可能性なのよ。ドクターから聞いたのだって、たまたまだったのだし。だから、これはたまたまなのかもしれない」

美智恵は一呼吸置いた。

「かと言って、実際に魔力が使われていたとしたら、オカルト犯罪が行われていた可能性があるかもしれない。けど、こんなあやふやなものにオカGの戦力を割くわけにもいかないし。
でも妙な予感だけはするしで、どうしようもないのよ。それで横島クンにお願いしたいの」

「マリアには頼まないんですか?」

マリアが感知したのなら、マリアに頼む方がより正確を期せるはずだという事である。もちろん美智恵もそう考えていたのだが、残念ながらドクターカオスとマリアは現在東京に居ないのだと言う。

「なるほど……」

横島は考える。

霊能者の予感は、単なる予感の範疇を超える。場合によっては、予知ですらあり得る。それはオカルト業界に携わる者の常識と言って良い。まして、一流のゴーストスイーパーでもある美智恵の予感ならば、なおのことである。

「となると……確かに俺たちの方が最適かもしれませんね」

瞬間的とは言え通信を広域的に途絶させた可能性のある魔力である以上、その大きさも相当なものであると想定される。そうである以上、現在もその痕跡が残っている可能性が高い。だが、それから半年近くが経過している現在、通常の探知機では検出不可能なレベルにまで下がっている可能性も高い。だが、“彼女”の魂を内包する自分とその使い魔たるほたるならば、そのわずかな痕跡を探し出せる可能性が高い……

「あ、でも無理に探す必要はないのよ。あくまでも可能性の話だから」

だんだんと表情を険しくする横島に、美智恵が慌てて声をかける。美智恵もまた、そのつもりで横島に声をかけたのだが、そうは言っても心が痛まないわけではない。何せ、美智恵は横島がそうなってしまった原因を作った、張本人の一人であるから。

「いや、大丈夫です。その依頼、受けますよ」

その言葉に美智恵は安堵する。

「そう、お願いするわ」

そして、頭を下げた。

美智恵の依頼を受けた翌々日、横島とほたるは車中の人となった。

海鳴市へと向かう列車は通勤路戦としても機能しているため、車両にはシート席とボックス席とが混在している。2人が選んだのはボックス席であった。せっかく東京を離れるのである、どうせならば都心を彷彿させるシート席ではなく、少しは旅の雰囲気を味わえるボックス席がいい、というのがその理由である。

「良い天気だね……」

「ですね……」

2人は何気なしに車窓を見る。

2人の視線の先には海が流れていた。今日の天気を反映してか、海はどこまでも青かった。波もさほど白くないところを見ると、風もさほど強く吹いてはいないのだろう。反対側を見れば、どこまでも続く色づく山並み。そろそろ11月も終わろうかという季節ではあるが、紅葉はもうしばらく続くようである。

仕事でなければ最高だ。これが2人の偽らざる気持ちであった。が。

「……とまぁ、いつまでも現実逃避をしていても仕方がない」

「はい」

「とりあえず方針確認」

「ですね」

「海鳴に着いたら取り敢えず部屋に行って荷物を放ってくる。その後、現場を見がてらひとまず適当に散策」

横島は足下と荷物棚に目を向ける。そこには、まるで本格的な登山行に向かうかのようなリュックと、これまたまるで海外旅行に出かけるような大きめのキャリー式の旅行鞄が鎮座していた。その中には、2人の着替えその他のみならず、神通棍や霊体ボーガンと言った攻撃的アイテムから、破魔札に吸引札と言ったお札類、見鬼君や霊視ゴーグルなどのさまざまなオカルトアイテムがこれでもかと詰め込まれている。

アイテムを大量に持って移動するのは、横島が美神除霊事務所にいた頃からの習慣である。美神除霊事務所にいた頃の横島は、これら大量のアイテムを運ぶのが仕事のひとつであった。しかも囮や偵察と言った仕事も兼ねていたため、大荷物を抱えて走り回ることも多かったのである。

とは言うものの、大荷物を抱えて走り回ることを好んでいるわけではない。そもそも、本来横島とほたるはこれらの大量なオカルトアイテムを必要とするわけではない。それにも関わらず大量のオカルトアイテムを持ち込んだのは、1?2週間程度の現地滞在を想定したためであり、万が一を想定したためでもあった。身軽に動けるのならば、それに越したことはない。

「できれば罠も張りたいところだけど、さすがにそれは無理だろうなぁ……」

「それはさすがに……」

ほたるは若干引きつった笑みを浮かべる。

本格的な仕事に入る前のお仕事。それは万が一を想定した逃走ルートの確認。可能ならば逃走補助手段、つまり罠を設置する。横島のモットーは、「事前準備は念入りに」である。
情報の収集と確認、地理環境の把握。事態を可能な限り有利に進めるための下準備。それはまた、横島の師匠に当たる美神令子のモットーでもあった。

「明日も、そんなところだな。とにかく地理の把握だ。何かあったときに備えておかないと」

逃げ道を確認しないとと呟く横島を見て、ほたるは柔らかな笑みを浮かべる。

横島は基本的に争いごとを好まない。と言うよりも、痛いことと血を見ることが嫌いである。そんな性分にもかかわらず、色香に迷ったとは言え一流のゴーストスイーパーの助手となり、諸々の経緯もあって自らもまた一流と言えるゴーストスイーパーとなった。否、なってしまった。だが、それでも生まれもっての性分はそう変わるものではない。逃げられるときは、逃げるときは全力で逃げる。この行動原理は、今も健在である。

スポンサーサイト



この記事に対してトラックバックを送信する(FC2ブログユーザー)
http://mizuasa01.blog120.fc2.com/tb.php/10-885a4f96

0件のトラックバック

1件のコメント

[C8] 管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

投稿フォーム
投稿した内容は管理者にだけ閲覧出来ます

Appendix

カウンター

 

――――――――――――――

最近のトラックバック